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慰安婦問題と御巣鷹山日航機事故~フェイク情報は放置するな

【英語版】

国際歴史論戦研究所
所長 山本優美子

ある出来事から40年ほど経ち、当事者が少なくなったころにフェイク情報が拡散され、捏造が「事実」にすり替わることがある。「第二次世界大戦中の日本軍は、占領地の女性と少女20万人を拉致し、慰安婦と呼ぶ性奴隷にして虐待し、戦争が終わるとその殆どを殺した」という嘘、いわゆる慰安婦問題がそうである。

今、もう一つのフェイク情報が拡散されている。1985年の御巣鷹山日航機123便事故だ。慰安婦問題と日航機事故、この二つは全く別のようだがフェイクの共通点は反日本軍と反自衛隊だ。

◆自衛隊犯人説のフェイク情報

1985年8月12日に御巣鷹山に墜落した日航機123便の事故は、犠牲者520人の史上最悪の航空機事故であった。事故原因は、航空事故調査委員会の調査によって後部圧力隔壁の不適切な修理が原因となって、飛行中に隔壁が破損したことによるものと報告されている。自衛隊は人員約5万人となる大規模な災害救助派遣に出動。険しい地形の中で生存者の救助と遺体の収容という困難な任務を成し遂げた。

当時から、自衛隊の救助活動に対して机上の空論のような批判はあった。ところが40年経った今になって、事故は自衛隊が犯人の事件であったというフェイク情報が拡散されている。

その自衛隊犯人説は、纏めるとこういうものだ。

①相模湾にいた海上自衛隊の護衛艦がミサイル発射訓練で、日航機の垂直尾翼の一部を破壊。②その後、航空自衛隊のファントム二機が日航機を追尾してミサイルで撃ち落とした。③御巣鷹山に墜落した直後、陸上自衛隊が証拠隠滅のために火炎放射器で生存者や遺体を焼いた。④そのための時間稼ぎにわざと、現場の特定と空挺団の救助派遣を遅らせた。⑤元海上自衛官の機長はこの計画を知っていて、その秘密に関する資料を所持していたため、8月14日に発見された機長の遺体から自衛官が制服を剥ぎ取って証拠隠滅した。」

自衛官や当時の関係者にとってはあまりにも荒唐無稽な説で、反論もしてこなかった。ところが、SNS上ではこういった情報に多くのアクセスがあり、少なからずの人たちが信じている。自衛隊犯人説の書籍が何十万部も売れ、そのうちの三書籍が全国学校図書館協議会選定図書にも選定され、学校の図書館に並んだ。そして御巣鷹山には「自衛隊が意図的に殺害した乗客・犠牲者」と記された遺族による慰霊碑も設置されたのだ。

◆フェイクは事実で論破

この状況に危機感を持ち、当時の災害派遣に関わった陸海空の元自衛官と元日航社員が証言したシンポジウムが2025年4月16日に参議院議員会館で開催された。

そこで自衛隊犯人説は次のように論破された。

  1. 相模湾にいたという護衛艦「まつゆき」が海上自衛隊に引き渡されたのは翌年の3月。事故時は石川島播磨重工の船で、指揮を執っていたのは石川島播磨の船長、乗組員の多くも民間人であった。よってミサイルは搭載されていない。そもそも相模湾ではミサイル訓練はしない。したとしたら炎が衆人の目に入る。
  2. 航空自衛隊のファントムは、日航機がレーダーから消えた4分後の19:01に百里基地から2機発進したもので、それより前に発進はない。よって日航機を追尾したファントムは無い。基地帰投後もミサイルは発射されていないことを確認している。自衛隊は武器関係の管理が厳重である。ミサイルが一本無い状態で戻ったら一大事になる。
  3. 事故直後、現場に携行放射器(火炎放射器)とその燃料を現場に運び込むのは物理的に不可能。ある書籍には、火炎放射器で3.3ヘクタールを燃焼させたと書いているが、3.3ヘクタールを焼くには、携帯放射器が陸自保有の総数に相当する220セット、燃料ドラム缶(200L)が16~17本が必要である。また、ゲル化油を作成するのに通常は一昼夜、最低でも5~6時間は必要となる。これだけ大掛かりなことを短時間で隠密に実行できるわけがない。
  4. 現場の特定は、航空機からの測定は正確な位置を掴むもうと試みたが、墜落現場の燃えている範囲が帯状に長く、当時のTACAN(tactical air navigation system戦術航法装置)での位置測定では誤差が生じた。少しの誤差でも険しい山では尾根が違う。当時はGPSがなく、地上から向かう地図上の特定は難しかった。ある書籍には、事故当日に出た第一空挺団の(ヘリコプター)災害派遣命令が変更され、翌朝まで待機命令にして、意図的に派遣を遅らせたとある。これは全く嘘で、そもそも待機命令は出ておらず、第一空挺団に派遣命令が出たのが事故の翌朝であった。
  5. 8月14日の遺体収容作業時には既に多くの関係者とメディアが現場にいた。機長の制服を着ている遺体が発見されていたら、誰の目にも止まっただろう。その中で、遺体から制服を剥ぎ取るなどは不可能。またヘリコプター内では遺体は毛布にくるんで横に隙間なく並べたので、そこで制服を剥ぎ取る作業も不可能である。実際は、機長の遺体は8月29日に発見され、下顎部と歯牙数本だけであった。

◆慰安婦問題の二の舞にならぬよう

戦時中の慰安婦が性奴隷だったなどという話は、当時の人は嘘だと笑い飛ばしただろう。ところが、吉田清治の本が出版され、1990年代に朝日新聞が報道し、左派弁護士や市民団体が海外で活動した結果、「慰安婦は日本軍の性奴隷」が国際社会に広まり、慰安婦碑が世界各地に設置された。性奴隷説に反論すると「歴史修正主義者」と激しく非難されるようになった。

自衛隊犯人説のフェイク情報に対して自衛官が反論すると、加害者の言い訳、国家による言論統制、と批判するSNS上の言論空間がある。反自衛隊の情報が拡散されて喜ぶのは、日本と韓国の左派、北朝鮮と中国だろう。慰安婦問題も日航機事故のフェイク情報も情報戦、歴史戦だ。SNSやインターネットなどの情報媒体を利用して偽情報や偏った情報を流し、相手の思考や判断に影響を与えようとする認知戦でもある。自衛官の名誉を護り、次世代に正しい歴史を繋ぐために、フェイク情報は放置せずに真実は粘り強く発信し続けねばならない。