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令和6年(2024年)2月

国際歴史論戦研究所 ゲスト・フェロー

白川司

【英語版】

■「学術会議の在り方問題」が決着へ

 日本学術会議について、政府は現在の「国の機関」から「法人格を持つ国から独立した組織」に改める方針を決めたことが、2023年12月22日の松村国家公安委員長の記者会見で明らかにされた。2020年10月の菅義偉内閣による「任命拒否問題」から続いてきたこの問題は、次の岸田文雄内閣で一定の解決に向かって進み出した。

 日本学術会議はこれまで会員選考について政府と何度も対立してきた。同会議は国の機関であり任命権は総理大臣にある。だが、同会議は推薦した第一候補者を拒否することを全く受け入れてこなかった。だが、国から独立するのであれば会員選考も自立的に行えるので、今後はこのような対立はなくなる。

 日本学術会議はこれまで年10億円の支援を国から受けてきたが、今後はそれが縮小されていく。当面は財政支援を受けながら、財政基盤の多様化を試行錯誤していくことになる。同時に、運営の透明性を高めるしくみも検討していくという。

 この決定を日本学術会議は未だに承服はしておらず、同会議の意見を一部取り入れる必要は出てくる可能性もあるが、決定自体を覆すのは困難であろう。

■「任命拒否問題」の本質と思わぬ副次効果

 上述した菅義偉内閣による「任命拒否問題」の前に、日本学術会議改革の舞台を整えていたのが安倍晋三首相(当時、以下同)だった。

 両者の衝突は2度あった。1度目は2016年で、会員の3ポストの欠員が出たときの補充人事で、安倍首相はうち2ポストを第二候補に差し替えるよう要求。二度目は2018年で、11ポストの補充人事のうち1ポストを第二候補に差し替えるよう要求した。押し問答の末、どちらも日本学術会議側が人員補充自体を取り止めて決着している。

 ここで注意すべきは、日本学術会議が1ポストにつき2名の候補を立てていながら、実際は第一候補しか認めないことだ。同会議はこのやり方を何十年も貫き、政府や文部省(当時)や同会議や関連組織で第一候補を外そうとすると激しく抵抗してきた。表向きは2候補でも、実情は同会議の指命に過ぎなかった。

 3年に1回行われる会員の半数改選でも日本学術会議は同様の手法をとってきた。

 2017年の会員改選の折、安倍首相の要請により、日本学術会議は定員105名に対して110名を推薦するようになり、総理に5名の拒否枠を提示するようなった。だが、実際には日本学術会議側は「任命されるべき105名」を指定しており、残りの5名は任命する気などない形だけのものだった。

 2020年に「任命拒否」が起こった背景に、この前例を破って日本学術会議側が定員ぴったりの105名しか推薦しなかったことがある。

 平たく言うと、前首相との約束を破り、菅義偉首相(当時、以下同)に喧嘩を売ったわけである。これを受けて菅首相は任命拒否を「6名」に拡げて喧嘩を買う形となった。

 だが、この問題は思わぬ副次効果を生んだ。それは、日本学術会議と共産党のつながりが一般にも知られるようになったことだ。菅首相はこの問題で野党とマスコミに集中砲火を浴びたが、同時に日本学術会議も共産党も最大の懸案だったCOVID19のパンデミックそっちのけで、政府批判ばかりを繰り返した。

 だが、共産党が必死になるほどに日本学術会議との強い関係があぶり出されて、日本学術会議に反感を持つ人たちが増えることとなったわけである。

■国からの独立が必要な理由

 日本学術会議は小林内閣府特命大臣(科学技術政策等)にあてた2023年7月25日付の書面で軍民両用技術の研究について、「軍民両用と軍事に無関係な研究を明確に分けるのは困難」という認識を示し、多くのマスコミがこれを受けて「同会議が軍事研究を許容した」と報じた。

 この報道を受けるなり、日本学術会議は改めて1950年の立場を堅持することを主張する。その後、軍民技術を分けることは困難である見解を再度示したものの、同会議が共産党的「戦後平和主義」を手放す気がないことが明白になった。この期に及んでも戦後平和主義のイデオロギーに支配されており、国の機関としての役目を全うする気がない。

 日本学術会議は設立当初から「軍事研究は戦争の原因になる」という立場を貫き、1950年、1967年、2017年と3度にわたり軍事研究を行わない旨の声明を発表している。

 だが、軍民両用技術は今後の経済発展の根幹をなしているインターネットやAI、ドローンなどの技術が含まれている。日本はこれらの分野でアメリカから後れをとっており、中国にも差をつけられ始めている。官民が一体となって技術力を高めなければ国際競争についていけない。

 また、日本学術会議は2015年に中国科学技術協会と協力覚書を締結しており、同協会人民解放軍直轄の軍事科学院と間接的に人的交流があることから、そこに協力すれば中国の軍事技術に貢献するリスクがある。  日本学術会議が中国の軍事研究に協力的でありながら、日本の軍事研究は非協力的である。このように日本にとって害悪のある組織なのであれば、国からの独立させるのは当然だ。一日も早い国からの独立を望む。

令和6年(2024年)2月

国際歴史論戦研究所 上席研究員

仲村覚

【英語版】

■反戦平和運動から反差別闘争にシフトした革命闘争

 2010年代の辺野古闘争から使われ始めている新たなキーワードがあります。それは、「沖縄差別」という言葉です。それは「日米安保の重要性は理解するが、沖縄に過剰な基地を押し付ける差別は許さない」というロジックです。日米安保反対を県民に扇動しているのではなく、差別は許さないという感情を煽って扇動しているのです。

 その被差別意識を醸成するために、「琉球処分」とか第二次大戦で沖縄を「捨て石」にしたというストーリーを使って、「沖縄は常に日本の差別的植民地支配を受けて、それは今も続いている」と主張します。

また、「沖縄県外の人たちは、沖縄を差別しているとは自覚は無いまま、国家の利益のために沖縄を差別している。これを「構造的差別」というと新たな専門用語も使われ始めています。そして、沖縄の未来のためには、沖縄の自己決定権を回復するしか無い、という運動目標を提示しているのです。

つまり、沖縄の反基地運動は、かつての日米安保の破棄を目指す「反戦平和運動」から、沖縄差別の解消をスローガンにした「反差別闘争」に完全にシフトしているのです。

■国連勧告を利用した反差別闘争

 2008年より国連の自由権規約委員会及び人種差別撤廃委員会より、日本政府に対して「沖縄の人々を公式に先住民族と認めてその権利を保護するべき」との勧告が合計6回出されています。日本政府は反論していますが、繰り返し出されるということは、国連は沖縄の人々を先住民族と認識は揺らいでいないということです。この勧告が危険なのは、2007年に日本政府も賛成して採択された「先住民族の権利のための国際連合宣言」に連動していることです。その第30条には、「先住民族先祖伝来の土地、領域では軍事活動は行わない」という条文があり、また、軍事活動を行う場合は、先住民族のリーダーとの効果的な話し合いが必要とあります。つまり、国連の認識では、沖縄の人が米軍基地は不要だと言い出せば、それに対応した行動を取らない日本政府は「先住民族の権利のための国際連合宣言」に違反していると見なされることになるのです。

また、中国はそこに乗じて、琉球は古来より中華民族の一員で、日米からの独立運動を続けており、中国人民はそれを支援しなければならないなどと国内外にプロパガンダを発信していますので、台湾有事の際、この「反差別運動」は中国が沖縄の主権に口出ししたり、手出ししたりする口実に利用される可能性が極めて大きいといえます。

■定義があいまいなヘイトスピーチを利用して階級闘争を煽る日本のマスコミ

 日本政府においては危険な法律や条例も作られ続けています。代表的なものが「ヘイトスピーチ解消法(通称)」です。正式名称は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」といい、本邦外出身者、つまり政府が日本における少数民族と認めているアイヌや在日朝鮮人等に対する差別的言動の解消に対しての取り組みを決めた罰則の無い理念法です。差別的言動を解消するという目的事態は否定できないのですが、これは悪用されるリスクの高い法律であり、事実、悪用されています。

法律では本邦外出身者に対する差別的言動の定義がされていますが、日常ではほぼ同義語の「ヘイトスピーチ」という用語が使われています。法務省の人権擁護局では「ヘイトスピーチ」の事例は示されているものの明確な定義はありません。法務局に確認したらヘイトスピーチという用語の使い方に意見を言う立場にないとの回答だったのです。事実上の回答拒否です。

そのため、沖縄県民は本邦外出身ではないにもかかわらず、「沖縄ヘイト」という言葉がまん延しています。それを根拠に「県は、県民であることを理由とする不当な差別的言動の解消に向けた施策を講ずるものとする。」という条文が盛り込まれて「沖縄県差別の無い社会づくり条例」が令和5年4月に施行されました。これらの法律や条例を根拠に差別闘争の手法や行動を批判するものとターゲットに、ありもしない差別をでっちあげ、「◯◯が差別した。」「◯◯の発言はヘイトスピーチだ!」とレッテル貼りの批判をする人やマスコミが現れ、誰も改善を求めることができなくなるのです。

■沖縄についての「世論戦」をどのように戦うか

 中国人民解放軍の教範には、「三戦」が謳われています。「世論戦」「心理戦」「法律戦」です。人民解放軍は、これらの戦は、「中央軍事委員会の戦略的意図と作戦任務に基づき行われる戦闘行動」と定義されています。これらは密接に関わり合っていますが、今の沖縄で最も重要なのが政治に大きな影響を与える「世論戦」です。そして昨今、「琉球の人々は琉球王国時代から日本に差別され続けており、再び戦場にされようとしている。戦争を回避するためには沖縄の自己決定権を回復させなければならない」というストーリーに基づいた世論戦が仕掛けられているわけです。残念ながら現在の日本では、自衛隊を始めどの情報機関も世論戦に対して防衛を遂行する任務を持つ機関も能力を持つ機関も無いのです。中国の三戦に対しては、民間人が立ち上がって戦うしかありません。しかも、台湾有事の危険性が近づいた今、沖縄の世論戦は国防最前線だといえます。

更にその世論戦の裏で沖縄の人々を先住民族とする国連勧告が出されているのです。この勧告はほとんどの沖縄県民は自らのアイデンティティーにかかわる当事者であるにもかかわらず、みごとに隠蔽されて知らされていないのです。徹底的に隠蔽されている理由は、99%以上の沖縄の人々は日本人とのアイデンティティーを持っているため、扇動に失敗することをわかっているからです。

ここに、劣勢に追い込まれながらも世論戦を優位に戦う切り口があります。もし、この勧告の存在や「反差別闘争」の目的と危険性を多くの沖縄県民に知らせ、「先住民族だと思う人はあちらの候補へ、日本人だと思う人はこちらの候補に入れてください!」と選挙の争点にまで持ち込むことができたら、一気に形勢を逆転させることができると思うのです。そして「ヘイトスピーチ」という便利なツールを獲得した差別反対闘争勢力でも、「我々は日本人だ。国連勧告は間違っている!」と主張する人を「ヘイトスピーチだ!」とレッテル貼りをすることはできないからです。

ただ、テレビ新聞のほとんどは「反差別運動」側の陣営にありますので、我が陣営の世論戦の活動は、ネット拡散、チラシ配布、街頭演説という限られた手段しかありません。しかし、もし、日本の人口のわずか1%に過ぎない沖縄に対し、残りの99%の全国の愛国者が一丸となって戦えば、沖縄県民を目覚めさせ、沖縄の世論戦に勝利を収めるものと確信しております。日本国民全体の自覚を期待します。

令和6年(2024年)1月

国際歴史論戦研究所 上席研究員

河原昌一郎

【英語版】https://i-rich.org/?p=1802

1 2024年台湾総統選の結果

 2024年台湾総統選では、与党・民主進歩党(以下「民進党」)の頼清徳候補が約40%の得票率で当選した。選挙戦では野党第一党・中国国民党(以下「国民党」)の侯友宜候補と野党第二党・民衆党の柯文哲候補と三つ巴の争いとなり、頼清徳候補がやや有利と見られたものの最後まで予断を許さない状況であったため、今回の結果に、欧米諸国をはじめ民主主義陣営に属する人々はひとまず胸をなでおろしたことであろう。ただし、同時に行われた立法院の選挙では、民進党は過半数を割り込んでおり、今後の台湾政治の不安定要因となることが懸念される。

この度の選挙戦で最大の争点となったのは、中共との向き合い方であった。

 民進党・頼清徳候補の対中共姿勢は、基本的に現在の蔡英文政権の路線を継承し、中共とは一定の距離を保ちつつ、その圧力には屈しないというものである。

 これに対して、国民党・侯友宜候補は、中共との融和路線を基本とし、中台間での話合いを通じた経済関係の強化・拡大を強調する。

 また、民衆党・柯文哲候補は、両候補の間をとり、米国と中国との橋渡しをすると主張した。

 こうした三者による選挙戦が進む中で、中共は台湾に親中政権を樹立するため、親中派である国民党・侯友宜候補に票が集まるよう、選挙干渉のためのあらゆる活動を行った。軍事的圧力、貿易制限、報道機関への干渉、フェークニュースの流布、台湾有力者の中国招待、台湾企業家への経済的便宜、台湾若者の中国留学、等、等である。

それでは、中共は、なぜそこまで躍起になって台湾に親中政権を樹立しようとするのだろうか。それは、そのことが中共の台湾統一シナリオに直結しているからである。以下で、そのことを見ていきたい。

2 中共の台湾平和的統一シナリオ

 中共の台湾統一シナリオには平和的統一と軍事的統一の2つのシナリオがある。巷間、よく議論されるものは軍事的統一シナリオであるが、軍事的統一は言うなれば最後の手段であり、平和的統一がまず追及されるべきシナリオである。

 台湾の平和的統一で、中共がこれまで対立していた国民党を逆利用することを思いついたのは、国民党が初めて野に下った2000年代初めのことであった。当時、国民党は政権を失った打撃が大きく、困窮していたが、そこに手を差し伸べて国民党の取込みを図ったのが中共であった。その総仕上げとも言うべきものが2005年4月29日の連戦国民党主席と胡錦涛共産党総書記との国共トップ会談である。同会談は第三次国共合作とも称された。同会談では五項目の共通認識(以下「五大願望」)が表明されたが、五大願望はまさに中共の台湾の平和的統一シナリオを明示したものである。その内容は、①両岸の協議を再開させること、②両党で定期交流の場を持つこと、③台湾の国際活動のあり方を協議すること、④両岸の全面的な経済貿易協力関係を形成すること、⑤両岸平和協定を締結すること、であった。

 2008年に政権を回復した国民党の馬英九はこの五大願望を忠実に実行した。ただし、経済貿易協力関係については、2010年の経済協力枠組協定の締結で大幅な自由化が実現したものの、サービス貿易協定の承認が学生等による反対運動(ひまわり学生運動)で挫折し、発効しないままとなった。2011年には両岸平和協定を持ち出したこともあったが時期早尚の感が否めず島内で強い反発に会い、速やかに撤回せざるを得なかった。その後の蔡英文政権では、当然、サービス貿易協定も両岸平和協定もお蔵入りとなり、現在に至っている。

 中共の台湾での親中政権樹立の狙いは、まず、このサービス貿易協定を発効させること等により、台湾でのメディア、出版、金融保険等の分野での支配を進めることである。柯文哲候補と侯友宜候補は選挙戦序盤でこのサービス貿易協定の発効を主張していたが、このことからも両者が中共の「手の者」になっていることが窺がえよう。

 そして、台湾での言論を支配した上で、一国二制度の考えを台湾人に浸透させることである。中共の考えでは、台湾人の一国二制度に対する反発が台湾統合の妨げの要因となっている。その要因を除去しようというものである。そうして台湾人の抵抗感を極力低めた上で、平和的に両岸平和協定を締結する。

 もとより、現実に両岸平和協定の締結に至るには、想定不可能な極めて複雑な状況に遭遇することとなろうが、大筋のシナリオは以上のようなものとなろう。いずれにしても親中政権でなければこうしたシナリオの実現は不可能であるが、今回の選挙ではそれを実現させることができなかった。中共の目論みは頓挫したのである。

3 武力統合と台湾の国家性

 中共のとるべき残るシナリオは軍事的統一すなわち武力統合であるが、これについては台湾の国家性に関する扱いが事の成否を左右する重要な問題となる。台湾への武力行使に外国の干渉が国際法上許されるのかという問題である。

 中共は台湾の国家性は認めず、中共の台湾への武力行使は中国という一国家内の内政問題だと主張する。台湾政府は国内の反乱団体に過ぎず、これへの武力行使は内政問題であり、内政問題には他国は干渉できないはずだと言うのである。

 これに対して、台湾の民進党は、台湾は十分な国家性を有しており、実態として分断国家であるとする。両岸の現実は、台湾の中華民国と大陸の中華人民共和国がそれぞれ並列的に分断国家として存在しているのであり、中共はその現実を認識すべきであると主張する。これによれば、中共の台湾への武力行使は、明白に国連憲章第2条第4項で禁ずる他国への侵略行為に該当し、他国の干渉を受けてもやむを得ないこととなろう。

 ところが、同じ台湾の政党であっても、国民党はこれとは異なる考えを持っている。国民党は蒋介石以来の伝統として「中国は一つ」との党是を維持している。敢えて主張しなくなったが、台湾は大陸をも含む中国国家の一部だとする考えを捨ててはいない。

なお、民衆党は国家観については口をつぐんだままであり、見解を明らかにしていない。

 このように台湾内部で国家観が異なることには留意が必要であるが、この30年来の民主主義の実践を通じて、台湾人の圧倒的多数は自身が事実上独立した国家で生活していると認識しており、台湾が中国国家の一部だと考える人はごくわずかとなっている。

 台湾が実体的な独立国家であることは国際法上も是認されるであろう。モンテビデオ条約での国家の要件は、「永続的住民」、「明確な領域」、「政府」、「他国との関係を取り結ぶ能力」の4点であるが、台湾はこれらの要件を問題なく満たしている。また、この30年来の独立した民主国家としての台湾の継続した活動を知らない国はないだろう。台湾が事実として独立した国家であることは疑いようのない事実である。中共は詭弁を弄しているにすぎない。台湾を事実上国家として扱うことが台湾の国際的地位を高め、台湾の安全にも資するのである。

4 今後の台湾海峡と東アジア

 今回の総統選で、蔡英文路線を引き継ぐとする頼清徳候補が当選したことから、台湾海峡の情勢が急速に不安定化するという懸念は薄れたが、中国による台湾への軍事的圧力はますます強化され、両岸の軍事的緊張は強まるであろう。

 一方で、東シナ海、南シナ海を含めて、東アジアでの米中の対立が深まる中で、米国にとって、東アジアの民主国家台湾の防御価値はかつてなく高まっている。このため、中国の台湾への武力行使に米国が介入しないことはあり得ないだろう。台湾は、民主主義陣営を率いる現在の米国の東アジア政策の要となっており、台湾の放棄は米国のアジア政策の崩壊と敗北を意味する。  こうした中、今回の総統選挙の結果によって、とりあえず中共の平和的統一のシナリオが進展することを阻止できたことは民主主義陣営にとっては朗報であった。ただし、繰り返しになるが、立法院選挙では過半数を確保できなかった。このことは、政権運営に多くの困難をもたらすこととなろう。頼清徳政権の今後は、決して楽観視できるものではないのである。

International Research Institute for Controversial Histories

Senior researcher

Yoshiaki Yano

日本語

Conflicts in the Middle East are raging once again. The war between Hamas and Israel is escalating. The historical background and its misinterpretation by the Great Powers concerned have caused complicated consequences.

During the Islamic Ottoman dynasty, in the present-day Israel, Jews and Christians lived in peaceful harmony under the Islamic rule.

However, at the end of the 19th century, the Zionist movement started, and groups of Jews started entering Palestine to settle in “God’s promised land.” But the Ottoman Empire did not particularly regulate their settlement.

After World War I, as the Ottoman Empire was in the process of dissolving, the Middle East region was divided into areas under the rule of several Western Great Powers. The United Kingdom, one of the belligerent powers of the War, concluded the Hussein-McMahon agreement in 1915, while the war was still going on, and promised the independence of the region where Arabs resided in exchange for the cooperation of the Arabic States in the war against the Turkish Ottoman Empire.

On the other hand, in May 1916, the United Kingdom made a secret agreement with its allies France and Russia, regarding the control over the Ottoman Empire after the War.

Moreover, in November 1917, the British Government issued the Balfour Declaration, pledging its agreement and support for the establishment in Palestine of a “National Home” for the Jewish people.

This triple-tongued diplomacy on the part of the United Kingdom, which made pledges that contradicted one another, is said to have been the fundamental factor creating the present-day Palestinian issue.

However, the Arab State designated in the Hussein-McMahon agreement did not include Palestine and some say that the two agreements did not contradict each other.

The Balfour Declaration clearly safeguarded the rights of Palestine’s indigenous non-Jewish residents while establishing a “National Home” for the Jewish people in Palestine.

Based on the Balfour Declaration, in 1922, the League of Nations adopted the resolution of the British Mandate for Palestine. At that time, the residents in Palestine were mostly Arabs and even under the mandatory rule, in view of the right of people’s self-determination, Arabs’ sovereignty should have been respected.

However, as the Zionist movement rose further, more and more Jews came to buy land and settle in Palestine and the conflicts between the Arab Palestinian residents and the Jewish settlement and Jewish settlers became more frequent.

The confrontation between the two peoples under the mandate turned into conflicts between States after the United Nations’ resolution to divide Palestine after World War II.

In the background of this resolution lay the massacre of Jews by Nazi Germany during World War II. Before and during the War, many Jewish refugees headed for Palestine and the movement to support the establishment of a state for homeless Jews in Palestine became widespread among the Allied Nations.

Decisively important was the lobbying by Jewish American residents in the Congress of the United States of America, the most powerful victor of the War. In 1947, the United Nations General Assembly adopted the resolution recommending the termination of the British Mandate for Palestine and the partition of Palestine to create two independent Arab and Jewish states, and a Special International Regime for the city of Jerusalem.

It turned out that the United Nations resolution allowed a different people to establish a respective new State in another’s land, almost equivalent to allowing invaders to conquer the land, which is against international law. This is exactly what became the root of the current conflicts in the Middle East.

In fact, on the next day after the State of Israel was proclaimed in 1948, the surrounding Arab States, not recognizing the Israeli independence, started military attacks against Israel. This was the first Middle East War. Israel won the war and after ceasefire through the United Nations mediation consolidated its status as an independent State and came to occupy a larger portion of the land than initially allocated in the Partition Resolution by the United Nations.

While Israel occupied the Palestinian region, more than 700,000 Palestinian people became refugees, which created the current Palestinian refugee issue.

After that, Middle East Wars between Israel and the surrounding Arab States took place three more times, and each time Israel won, expanding its territory further.

On the part of Palestine, the Palestine Liberation Organization (PLO) was formed in 1964, asserting its goal of Palestinian self-determination, but in the Lebanese civil war in 1982, the PLO was ousted from Lebanon and its influence gradually diminished. In 1988, after deciding to establish a Palestinian State in the West Bank of the Jordan River and in the Gaza Strip, co-existing with Israel, the PLO adopted the Palestine Declaration of Independence.

In 1993, the Oslo Accords were signed, according to which the Government of Israel and the PLO recognized each other and an interim Palestine autonomy in the Gaza Strip and the West Bank was established. The PLO promised to abandon its armed struggle, but the newly established Hamas, acting as a destroyer of peace, launched suicidal terrorist bombings, aggravating the domestic conflicts with the interim government.

Hamas won the Palestine legislative election in 2006 and after the Battle for Gaza in 2007 became the governing authority in the Gaza Strip. Hamas is an organization that follows the principles of Sunni Islamic fundamentalism and Palestinian nationalism.

During the Syrian civil war, attempting to oust the Asad Government, Hamas fought against Hizballah, supported by the United States and Israel. Hizballah is a Shia Islam militia, based in southern Lebanon, supported by Iran.

In recent years, however, Hamas has been concentrating on armed struggle against Israel, promoting the strategic cooperation with Hizballah, and receiving support in terms of weapons and training.

The current conflict with Israel, triggered by the unexpected attack by Hamas, opened a new battle front in connection with the ongoing war in Ukraine, which benefits strategically Russia and China, although they are not directly involved in the conflict. Some commentators even think that support for Hamas came from Russia and China.

Another assumption based on the conflict is that Israel and the United States may launch a preemptive strike against Iran, which is reportedly close to obtaining enriched uranium that could be used to build a nuclear weapon.

On the other hand, the Biden Administration released $ 6 billon-worth of the frozen Iranian assets. It cannot be denied that part of that money went to Hamas through Hizballah.

It is not clear, either, why the Biden Administration released as much as $ 6 billion of frozen Iranian assets, or whether weapons left deserted in Afghanistan or part of the weapons to be sent to Ukraine found its way into the hands of Hamas.

Some speculate that since Russia seems to be winning in the Ukraine War despite the past expectations, the U.S. Jewish international financial capital is trying to make profit by waging a new war in the Middle East.

Thus, the historical background leading to the outbreak of the war in the Middle East this time and the misunderstanding by the Superpowers of the realities inside and outside the region are so complicated that it is not at all a simple question of which one is ally or foe or which one is right or wrong.

It is urgent for each country to correctly analyze the situation and make the utmost effort to secure its national interest and particularly national security, without being swallowed up in the violent current of these bizarre and complicated international circumstances.

The region surrounding Japan is as militarily tense as Ukraine and the Middle East. Japan must have its own independent national security policy and carry out informational activities.

Particularly, Japan depends on the Middle East for more than 90% of its crude oil import. If the safe passage through the Strait of Hormuz should be threatened, Japan would be directly hit. Japan has 240 days’ oil stockpile maintained by the state and private companies. If the conflict should linger on, the Japanese economy would be hard hit. Japan should strengthen its energy security and particularly, restart its nuclear power facilities soon enough.

The conflict may suddenly spread and it is urgent to secure the safety of the Japanese residents and companies in the region and to have them safely and promptly return home to Japan. Reexamining the five principles to participate in the U.N. Peace Keeping Operations (PKO), the Japan Self Defense Forces should be authorized to use the necessary weapons in carrying out their missions in the conflict regions.

The biggest threat is China’s advance to the Senkaku Islands and Taiwan, using the void of power in the Northeast Asia. The state control of the Chinese economy tightens further and the dictatorship of Xi Jinping is further consolidated after consecutive ousting of high government officials and it appears that there are signs of progressing preparations for war, including efforts to enhance the nuclear forces and stockpile more nuclear weapons. Japan should speedily enhance its defense force, prepare for a possible attack on the Senkaku Islands and strengthen its own nuclear deterrent power.

令和5年(2023年)11月

国際歴史論戦研究所 上席研究員

矢野義昭

【英語版】https://i-rich.org/?p=1796

中東ではまた紛争が激化している。ハマスとイスラエルの戦いが激化しているが、その歴史的経緯も関係大国の思惑も複雑である。

イスラム帝国だったオスマントルコ時代には、今のイスラエルでもイスラム教徒の支配のもとにユダヤ教徒もキリスト教徒も平和裏に共存していた。

しかし19世紀末にシオニズム運動が起こり、それ以来「神に約束された地」とするパレスチナにユダヤ人の入植者が入るようになったが、オスマン帝国は特に規制はしなかった。

 第一次大戦によりオスマン帝国の解体が進むと中東地域は西欧列強により分割統治されるようになる。

大戦の一方の当事国であった英国は、大戦中の1915年にフサイン・マクマホン協定を締結し、アラブ諸国に対トルコ戦に協力することを条件に、アラブ人居住区の独立を約束した。

 他方で英国は翌年5月、連合国側の仏露と、大戦後のオスマン帝国領土の勢力圏について秘密協定を交わしている。

 さらに1917年11月に英国政府は、ユダヤ人のパレスチナでの居住地(ナショナルホーム)建設に合意し、それを支援するとのバルフォア宣言を発している。

 この英国の三枚舌外交は、相互に矛盾しており、今日のパレスチナ問題の根本原因を創ったと言われている。

 ただし、フサイン・マクマホン協定に規定されたアラブ人国家の範囲にパレスチナは含まれていないため、この二つは矛盾していないとの見方もある。

またユダヤ人のパレスチナでのナショナルホーム建設に当たっては、パレスチナ先住民の権利を保護することが明記されている。

バルフォア宣言に基づき、1922に国際連盟は委任統治領パレスチナ決議案を採択した。当時パレスチナ地域の住民は大半がアラブ人であり、委任統治下であっても、民族自決の権利という立場では、アラブ人の主権が尊重されるべきであった。

しかしシオニズム運動の高まりの中、パレスチナには土地を買い取り定住するユダヤ人が増加し、これに反発するパレスチナ住民とユダヤ人との対立が頻発するようになった。

この委任統治下の両民族間の対立が国家間の対立に転換したのは、第二次大戦後の国際連合によるパレスチナ分割決議以降である。

この決議の成立の背景には、第二次大戦中のナチスによるユダヤ人虐殺があった。戦前、戦中に発生したユダヤ人難民の多くがパレスチナを目指す一方で、祖国を持たないユダヤ人のパレスチナでの国家建設を支持する動きが、連合国側の各国で高まった。

中でも決定的重要性を持ったのが、最大の戦勝国米国の議会に対する、米国内ユダヤロビーの働きかけであった。1947年の国連総会において、英国の委任統治を終わらせアラブ人とユダヤ人の国家を創出し、エルサレムを特別な都市とするとの分割案が決議された。

結果的に、国際法上は許されていない、他国領土に異民族が新国家を建設すること、則ち侵略による征服を容認したに等しい国連決議がなされた。この点にこそ、むしろ現代の紛争の根因があると言えよう。

 1948年のイスラエル国家独立宣言をした翌日、イスラエル独立を認めない周辺アラブ諸国は武力侵攻を開始した。これが第1次中東戦争である。イスラエルが勝利し、国連の仲介による停戦後も独立国としての地位を固め、当初の国連による分割決議より広大な地域を占領する結果になった。

半面イスラエルがパレスチナ地域を占領し、70万人以上のパレスチナ人が難民となり、今日のパレスチナ難民問題が発生した。

その後イスラエルと周辺アラブ諸国間の中東戦争は3回発生したが、いずれもイスラエルが勝利し、その領土はさらに拡大した。

パレスチナ側では1964年にパレスチナ解放機構(PLO)が結成されパレスチナの民族自決を主張していたが、1982年のレバノン内戦でレバノンも追われ、しだいに影響力を低下させた。1988年には「イスラエルと共存するヨルダン川西岸地区及びガザ地区でのパレスチナ国家建設」へと方向転換を行い、パレスチナ独立宣言を採択した。

1993年にはイスラエル政府と、PLOの相互承認とガザ地区・西岸地区におけるパレスチナ人の暫定自治を定めたオスロ合意が成立した。PLOは武装闘争の放棄を約束したが、和平粉砕を掲げるハマスが自爆テロを開始し、暫定政府側との内部対立が深まった。

ハマスは2006年のパレスチナ立法選挙で勝利し、2007年のガザの戦いののち事実上のガザ地区の統治当局となった。ハマスは、パレスチナ人によるスンニー派イスラム原理主義、民族主義に立つ組織である。

シリア内戦の際には、アサド政権打倒のためイスラエルや米国の支援を受けヒズボラとも戦ったことがある。ヒズボラは、イランの支援を受けたシーア派民兵組織であり、南部レバノンに基盤を置いている。

しかし近年ハマスは、イスラエルとの武力闘争に力を注ぎ、ヒズボラとの戦略的連携を強め、武器や訓練面での支援を受けている。

今回のハマスによる奇襲から始まったイスラエルとの紛争は、まだ継続中のウクライナ戦争に連動して新たな戦線を開くことにもなり、ロシアと局外に立つ中国にとり戦略的な利益があることから、両国の支援も背後にはあるとみられている。

また核兵器級濃縮ウラン入手寸前と言われるイランに対し、イスラエルと米国は先制攻撃をするのではないかとみられていた。

他方でバイデン政権は、凍結したイランの資金60億円の凍結を解除している。その一部がヒズボラを通じてハマスに流れた可能性も否定できない。

バイデン政権がなぜ60億ドルもの凍結資金を解除し、あるいはアフガンの残置兵器やウクライナへの供与兵器の一部がハマスにわたるようなことを放置したのかも明確ではない。

ウクライナではロシアに敗れて思惑が外れたので、中東で新たな戦争を画策して利益を得ようとする、米国のユダヤ系国際金融資本の思惑があるのではないかとの指摘もある。

このように今回の中東戦争に至る歴史的経緯も、域内域外の大国の思惑も、その背景は極めて複雑であり、単純に敵味方や善悪で割り切れる問題ではない。

この複雑怪奇な国際情勢の激動に流されることなく、常に的確な情勢分析を行い、国益とりわけ国家の安全保持に最大限の努力を払うことが各国には求められている。

日本周辺もウクライナ、中東に並ぶ軍事的緊張を抱えた地域であり、日本自身にもそのような自立的な安全保障政策と情報活動が求められている。

とりわけ日本は、原油輸入先の9割以上を中東に依存しており、ホルムズ海峡の安全航行が困難になれば、日本はその影響を直接受けることになる。日本の石油備蓄量は国と民間で合わせて約240日分あるが、紛争が長期化すれば、日本経済への打撃は大きい。エネルギー安全保障の強化、特に原発の早期再稼働に踏み切るべきであろう。

また紛争は急拡大するおそれがあり、現地邦人や企業の安全確保と日本への帰還も急がねばならない。PKO参加5原則を見直し、自衛隊に、紛争地域でも任務達成のため必要な武器を使用できる権限を与えるべきである。

最大の脅威は、北東アジアに生じた力の空白に乗じて、中国が尖閣・台湾への侵攻に乗り出すことである。中国経済は国家統制が進み、相次ぐ要人の更迭など習近平独裁体制が強化され、核戦力や備蓄の増強等の戦争準備が進められている兆候がみられる。

日本は防衛力強化を急ぎ、予期される尖閣侵攻などの日本有事に備えると共に、中朝の核恫喝にも耐えられるよう、独自の核抑止力強化にも踏み切らねばならない。

International Research Institute for Controversial Histories

Guest Fellow

Tsukasa Shirakawa

日本語

1. The origin of the SCJ’s Galapagos-like pacifism

The Science Council of Japan was established in 1949 under the rule of the Allied Forces General Headquarters (GHQ), when everything held affirmative prior to the Pacific War was negated without reason. This very atmosphere turned the national academy fundamentally aiming to support Japan’s science and technology into a propaganda organ with Galapagos-like pacifism .

The then Prime Minister Yoshida Shigeru was dissatisfied with the Science Council of Japan because while using the Government budget, all the SCJ did was to criticize the government and engage in political confrontations. So, Yoshida tried to change it from a government organ to a private one. But the SCJ’s first President Kameyama Naoto, citing the GHQ foremost, checked Yoshida and thus, eventually the time was up for Yoshida’s efforts.

Initially, when he took office, General Douglas MacArthur of the GHQ was very enthusiastic about the demilitarization of Japan. In thought and academic aspects, he was most attentive to two issues: the purge of public officials, which started in 1945, and the establishment of the Science Council of Japan.

2. The Science Council of Japan was filled with leftists

In the purge of public officials, many statesmen who held conservative views, journalists, business leaders, scholars and teachers were expelled from their jobs. Among those expelled, there were many people indispensable in the task of restoring Japan in the postwar years. It was only since 1950 that those indispensable workers gradually came to be exempt from the purge.

On the other hand, in the Science Council of Japan, from the very beginning, the subsidiary of the Communist Party named Democratic Scientists’ Association (DSA) was dominant. Against the re-armament, the Science Council of Japan issued a statement to the effect that the Council shall not engage in any study that may contribute to the development of military technologies. Incidentally, this statement was repeated as the statement of study of military security in 2017. Regarding national security, the SCJ has not changed its standing for sixty-six years.

The DSA lost support after it criticized Stalin in 1965 and practically ceased to exist in the 1960s. However, the Japan Scientists’ Association (JSA) succeeded it. The JSA is partially influenced by the Japanese Communist Party and the latter has kept certain influence over the Science Council of Japan, using this academic organization.

After DSA ceased to exist, its branch of jurists called “legal sub-committee” continues to operate even today and acts as a brain for the pro-Constitution movement or as an organization of activists. Incidentally, among the six SCJ members “who were denied appointment,” three of them, Mr. Matsumiya Takaaki, Mr. Okada Masanori and Mr. Ozawa Ryuichi are related to the legal subcommittee of the Democratic Scientists’ Association.

We should bear it in mind that although GHQ gave birth to the Science Council of Japan, it did not expand it. MacArthur himself gradually lessened his initial prejudice against Japan and finally started rearming it. On the other hand, the Science Council of Japan accepted MacArthur’s initial prejudice as it was and has preserved it.

I just mentioned that the first President Kameyama name-dropped GHQ in protesting against Prime Minister Yoshida’s intention to make the SCJ private. The Science Council of Japan has been very much proud of the fact that it came into being through GHQ, which was more powerful than the Japanese Government, while ideologically influenced by the Communist Party. This sense of pride seems to make the Science Council of Japan always act arrogantly in dealing with the Japanese Government.

3. The organization ailed by the “Pre-war Syndrome”

The year 1965, when Japan Scientists’ Association was born, was the “era of the students’ movement.” The Japanese Communist Party was promoting a peace movement with the goal to stop nuclear bombing and further accelerated it into a movement opposing the Vietnam War.

Part of the Science Council of Japan still carries the mentality of the students’ movement deeply soaked in pacifism and leftist ideology, which were present even in its prime age. This is clear from the scenes of scholars who “were denied assignment” loudly expressing themselves in front of the TV cameras.

Listening to anti-Government statements voiced by the Science Council of Japan, we can see its morbid, short-circuited thinking that connects everything to the pre-war situation or claims that “whatever conservative administration does leads to militarism.” I call it “Pre-war Syndrome.”

When statesmen of the ruling party try to enhance the national security policy, those who have internalized the pre-war syndrome hear “military boots” resounding from nowhere and become hot with flames of justice, thinking “unless we do something against it, Japan will become militarist.” This is the source of energy that keeps Galapagos-like pacifism going to this day within the Science Council of Japan.

4. The right to appoint resides in the Prime Minister

As the theoretical grounds for criticizing Prime Minister Suga Yoshihide’s refusal of appointment in 2020, it was mentioned that Niwa Hyosuke, Chief of Home Affairs of the Nakasone Cabinet, responded that “it is mere nominal recommendation and those recommended by the Council will not be refused and will be nominally appointed.”

In the background of this response, there was a change in the membership nomination. The SCJ members used to be elected among recommended candidates, but then the procedure was changed to a system of recommendation by the sitting SCJ members. By the latter method, it became easier for the Science Council of Japan to arbitrarily select its members.

However, the status of the member of the Science Council of Japan is special national civil servant to be appointed by the Prime Minister, which is clearly stated in the Science Council of Japan Law. It is the duty of a civil servant to follow the appointment by the Prime Minister. There is no need to account for the personnel appointment.

In addition, the final report of the Council for Science and Technology in 2003, based on the Fundamental Law on Reform of Central Ministries, Agencies and others, states, “As to the form of establishment, the way academies in major European and American states are is considered to be ideal, and regarding the Science Council of Japan, we will evaluate the progress in the reform within the next decade and discuss adequate way of establishment.” Following this, the Science Council of Japan should be reformed in one way or another by 2013.

5. The Science Council of Japan should promptly be dissolved 

Surveying proposals made by the Science Council of Japan so far, we cannot find any example of its significant social contribution that the entire nation can duly appreciate. In 2000, there was a case of fabrication in the field of archaeological society. The Science Council of Japan failed to propose any solution. In recent years, there have been many anti-Government proposals and when it comes to the covid disaster, the SCJ did not come up with any proposal. The Science Council of Japan, having assembled the top brains in Japan and being versed in overseas information and knowledge, has been busy protesting against the issue of the refused appointment, but failed to produce any proposal as a government organ during the hardest time for the Japanese people. A billion yen out of the precious tax money is annually spent on the SCJ. The Science Council of Japan seems not to feel duly responsible for meeting the people’s expectations.

In addition, the Science Council of Japan holds certain influence over the examination members of the Science Council of Japan Promotion Foundation in deciding the allocation of \237.7 billion scientific research fees for the fiscal 2021 as authorities in various fields of science. Through its enormous influence in allocating the scientific research fees, the SCJ controls the entire academic society, driving the academic world toward left, marring the Government’s national security policy and making Japan fall behind other countries in dealing with national security.

Moreover, some members of the Science Council of Japan are related to the so-called “seven schools of national defense” of the Chinese People’s Liberation Army, some apply to the “One Thousand People Plan” by the Chinese Government recruiting foreigners, and there is a case in which Japanese cooperated in Chinese military study, while opposing Japan’s own military study.

Most of physics and engineering scientists’ specialties span both military and civilian fields. However, the Science Council of Japan is so insistent on being a propaganda organization firmly opposing military study on its own that not a few scientists find it difficult to carry out their study in Japan. The SCJ is led by assertions of those in humanities study and pro-Communist Party members while members in physics and chemistry are obliged to follow them. Thus, only partial assertions made by ultra-left SCJ members turn out to be the assertions representing the entire Science Council of Japan.

In historical examination of the Science Council of Japan, we must say that the SCJ is too much influenced by the Japanese Communist Party, which has a mere one percent support rate among the Japanese voters. The Japanese Government should promptly start dissolving the Science Council of Japan for the sake of Japan’s national security and other important issues.   

令和5年(2023年)10月

国際歴史論戦研究所 会長

杉原誠四郎

 欧米の文明には3つの柱があるといわれる。ギリシャ哲学とキリスト教とローマ法である。

 ローマ法に関わっては「法とは発見するものであって、つくるものではない」という法諺があるようである。つまり法とは正義を追求するものであるということである。

 中国文明のもとでは、法とは権力の掌握者が人民を支配するための道具にすぎず、権力者がいかような法をつくってもよいし、いかように適用してもよいというものである。

 欧米の法はローマ法に起源があり、究極において正義を求めるというところがある。したがって、正しいという意味のright は、「権利」の意味にもなっている。ただ、法としては観念ではないから力の裏づけが必要で、right 右手を指し、力を表している。つまり力に裏づけられた正義を指す。

 こうして欧米の法は権力者の恣意によるものではなく、その存在自体に権威があるものとして扱う。その結果、「法の支配」とか「法治主義」の観念のもとに法が包摂され、原則としてその法が現在の世界を律している。

 かくして「法の支配」のもとではさまざまな原則が生まれてくることになる。刑を科す法律を作った場合、その適用は遡って行ってはならないという不遡及の原則はよく知られている原則の1つである。

 そうした諸原則のもと、国家との関係では、司法、立法、行政の三権分立の原則が求められることになる。司法、立法、行政が適正に牽制しあって、正義、及び法秩序の安定を図るのである。

 日本は明治以来、真摯に欧米の法学を学び、「法の支配」に服することに努力し、現在は「法の支配」に完全に服す国になっている。

 が、この一、二年、「法の支配」が崩壊しつつあるのではないかという事象が現れた。

 「法の支配」の歴史的危機と呼ぶべき「法の支配」の崩壊の兆しが見えるのである。

 昨年、12月10日、旧統一教会問題でいわゆる被害者救済法、正式には「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」が制定された。

 この法律は旧統一教会の解散を求めようという喧騒のなかで制定された。が、これを「法の支配」から考えたとき、旧統一教会を解散させるためにどんなに厳しい法律を制定しても、その適用はこの法律の施行後の案件に対してだけしか適用できなのだということが、この喧騒を受けている行政府の方から発信されなかった。もしそれが早めに発信されておれば、あれほどの喧騒に陥ることはなかったのではないか。

 岸田首相は解散事由には民法も入ると一夜にして解釈を変えたが、行政府として解釈の変更は法が許容していると見られる範囲のものであるかぎり、「法の支配」のもと、そこからの逸脱ではない。が、「法の支配」の原則を指摘せず、あたかも喧騒をいっそう搔き立てるかのように解釈の変更を言い出したのは、行政府として、「法の支配」のもと、一つの逸脱である。

 国会では本年6月16日、いわゆるLGBT法、正確には「性的傾向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」を成立させた。

 「法の支配」という観点から見て、本法には立法を必要とする事由たる「立法事実」がない。そういう法的状況のもとでこのような法律を制定するというのは、これまでの大多数の国民が享受してきた秩序を崩壊させ、安定した正義、安定した法秩序を不安定にし、国民の安寧と幸福を壊すことへ導くことになる。立法としてやはり「法の支配」からの逸脱である。

最高裁は本年7月11日、性別変更に必要な性別適合手術を健康上の理由で受けておらず身体は男性のままで妻子もいるといわれる、性自認で女性であると主張する性同一性障害の経済産業省の職員に省内の全ての女性トイレを使用することを認める判決を出した。

これによって性同一障害の当該原告の主張は通り、その限りでこの当該者の権利は満たされることになるが、しかしそのことによって経済産業省の大多数の女性が享受していた平穏に女性トイレを使用する権利を侵されることになった。

経済産業省はこの当該者に特定の女子トイレを使用するよう制限したもので、女子トレノ使用の全てを禁止したものではない。

最高裁としては、当この当該者の不便の救済を直接行うことを使命としているわけではなく、大多数の女性職員の平穏に女子トイレを使用する権利を鑑みて、当該者にこのような制限を課したものであり、この制限の措置が合法の範囲のものかどうかの裁定を仰がれていたのである。特定、特殊な事情の人のために圧倒的多数が享受している秩序を壊し圧倒的大多数の法益を奪うのは法の正義に反する。

また、このような特殊の事情にある者を救済しようというのであれば、該当者全員を対象に新たな制度を作ることによって救済すべきであり、議論して新しい制度をつくって救済する以外にない。しかし議論して新しい制度をつくるのは国会の仕事である。

司法は訴訟を通じて、既存の諸法規、慣習のなかで合法か合法でないかを判定して、それによって諸法規に最終解釈権を行使するところである。

司法において、大多数の享受してきたこれまでの秩序を破壊して特定の人を救済するのは「法の支配」に悖る。

最高裁は、我が国のまさに最高の裁判所であるから、伝統的秩序の維持を大事にし、安定した国家の創造に尽くさなければならない。

以上、この一、二年、司法、立法、行政の「法の支配」の崩壊につながっているのではないか思われる案件を指摘し、「法の支配」の崩壊に警告を発するものである。 「法の支配」「法治主義」については拙著『法学の基礎理論-その法治主義構造』(協同出版 一九七三年)を参照していただきたい。

International Research Institute for Controversial Histories

advisor

Nishikawa Kyoko

Japanese Version

The overpowering sense of existence of Prime Minister Abe being felt anew

It’s been a year since Prime Minister Abe was brutally shot to death. The tremendous sense of loss has been not a bit appeased all this while, and the greatness of his existence has been felt each day. As if in correspondence with the loss, it seems that the world is moving toward an undesirable and eerie direction. Once the world stood in the honeymoon mood between Prime Minister Abe and President Trump, without major conflicts and well-balanced with the leaders of advanced countries respecting each other. Only one country, China, tried to expand its military power, aggressively moving in the South China Sea, the East China Sea and around Japan. From that time onward, the U.S. China policy has been drastically changed and the sense of a threat coming from China has been rapidly spreading among the advanced countries.

Seeing such global circumstances, I cannot help but feel how great the presence of Prime Minister had been. In the strong and trustful relationship with President Trump, Prime Minister Abe supposedly told the U.S. President on every available occasion what a perilous threat China is and how dangerous China’s self-righteous political stand is. He probably informed him that at present, China’s expansionism constantly creates the threat of military invasion, regarding Japan as an imaginary enemy and that this situation is extremely dangerous to the United States.

In the postwar years, the United States policy toward China was consistently China-friendly, including the one of the Republican Party. China has been receiving enormous amounts of economic aid from both the United States and Japan and at present has acquired huge economic and military powers. China has now become a monster, nearly overpowering the United States and demonstrating its overwhelming presence to the world. The world owed much to Prime Minister Abe, who endeavored to let the major world leaders recognize the menace of China. But he is gone now. The war in Ukraine is getting more and more complicated and chaotic, Russia and China are getting closer to each other, and Japan finds itself in the extremely difficult position amid the two.

Non-commonsense claims rapidly spread today

In the world successively plagued by the corona-virus disaster and the war in Ukraine, the trend of globalism has become vividly conspicuous. Globalism, at the first glance, may look beautiful, but at its root, it is close to communism and is a movement aiming to steer things into one direction. It seems that the destination of globalism is rootlessness, confusion, emptiness and loss of identity as a human. Losing the sense of a state, more like in terms of reducing the state to individuals, individuals rather than the whole, minority rather than majority, extraordinary rather than ordinary, and so forth---the society that up to now has been well-balanced on such traditional relationships has recently changed into a society with the emphasis on just one side, putting ordinary existence and common sense into an awkward position. The mass media and those with social status cater today to people who loudly assert their non-commonsense claims, and their non-commonsense views are pushed aggressively to the center. I wonder since when have the Japanese people became such a deplorable nation. The Japanese people used to be very considerate of each other.

The typical incident riding on this recent trend was the enactment of the law to enhance the understanding of LGBT. I was totally appalled at the passing of this LGBT bill. The bill has been discussed and the attempt to enact the law has been made over the last seven years and while Prime Minister Abe was alive, the conservative Diet members of the Liberal Democratic Party had been fending off the movement. However, after Prime Minister Abe was killed, entering this year, suddenly and speedily, the bill was passed, led by supposedly conservative Diet members, ignoring many opposing voices within the Party. The excuse of those Diet members for leading the passing of the bill was that the LDP had taken over the opposition parties’ radical bill, considerably amending and correcting the wordings, in response to questions and concerns raised by the conservative group and simply held by the public. However, before such an excuse, there is a fact that even the United States has been very careful anticipating problems involved and has not passed the LGBT related bill at the Federal level. Why, then, did Japan pass the bill, in advance of the rest of the world? I feel that this is very dubious and inadequate. I would like to hear what Prime Minister Kishida really believes to be right.

The movement of the LGBT related legislation is advanced rather at the municipal level. Including Tokyo as a starter, fifty municipals across the country have enacted ordinance to prohibit discriminatory treatment based on sexual orientation or identity. The speed of the trend is amazing. The trend to enact this bill, using the “verbal tool” of anti-discrimination, further leads to the destruction of the marital system by the introduction of the partnership system. At the root of this chain of movements lies the promotion of political correctness, leading to the destruction of the entire order concerned with the identity of the Japanese people, such as Japanese traditions, culture, customs, common sense that have been nurtured over our long history. This is not a reform. A reform does not change the essential axis of the matter but changes the methods. However, the recent movement can be termed as white revolution, riding on the current of globalism. Without using arms, leading the human mind and thinking at the base of all the fields of human activities to a certain direction. I think this can be called mental revolution or a trend of thought control.

The Supreme Court should reach the judgment, considering the common sense of the public in the broad perspective

In less than a month after the LGBT bill was passed, on this July 11, the Supreme Court returned a verdict in the small court, recognizing the plaintiff’s complaint that the transgender worker of the Ministry of Economy, Trade and Industry be allowed to freely use women’s restrooms in the workplace. It was reportedly the unanimous decision of the five judges. What can I say? I thought judges are to reach judgment, in consideration of the public common sense and in the broad perspective, but, alas, they are not. They seem to live in a narrow and small world.

This year, in Saitama Prefecture, which enacted ordinance related to LGBT in 2022, they conducted a survey of public comments on making the basic plan. A total of 417 comments were turned in, 80% of which were against the plan. I think this is the exact consensus of ordinary Japanese. I only hope that the education for understanding LGBT at schools may not go too far, ignoring what parents, pupils and students feel. I used to fight against people trying to promote extreme sex education in Tokyo Metropolis. I cannot help thinking that advocates of the LGBT movement seem to have the same ideas as those advocates of sexual education I met in the past.

From the ancient times, countries with monotheism like Christianity and Islam have been very strict as their precept in dealing with sexual matters and homosexuality used to be severely punished as a crime. Therefore, the movement of LGBT tended to be radical. Comparing with monotheistic countries, Japan has been worshipping nature gods, which can be termed as polytheism and this kind of matter must have been dealt with in an extremely lenient, generous and open-minded way. Throughout our long history, various people have coexisted in a properly harmonious way. Therefore, it is totally unsuitable that Japan, having a history of such mature and moderate sexual responses, was the first to enact the “Promotion of LGBT Understanding Law” in the world.

令和5年(2023年)9月

国際歴史論戦研究所 フェロー

白川司

【英語版】 https://i-rich.org/?p=1756

1.ガラパゴス的平和主義の原点

 日本学術会議が設立されたのは、GHQ(連合軍総司令部)統治下の1949年で、敗戦の反動から戦前に肯定されてきたものが理屈抜きで否定された時期である。この空気こそが、本来は日本の科学技術を支えるべき国立アカデミーを、「ガラパゴス的平和主義」のプロパガンダ機関に堕落させた根本原因だろう。

 時の吉田茂総理大臣は、日本学術会議に対して「政府の予算を使っていながら、政府批判や政治的な議論ばかりをやっている」と不満を持ち、政府機関から民間に移管することを目指した。だが、初代会長である亀山直人はGHQの名前を出して吉田を牽制して、結局、時間切れで果たせなかった。

 GHQ司令官のダグラス・マッカーサーは、就任当初は日本の非軍事化に情熱を燃やしたが、思想・学術面において最も力を注いだのが1945年に始まる公職追放と日本学術会議の創設だった。

2.左翼だらけの日本学術会議

 公職追放では保守的な思想を持つ数多くの政治家、言論人、経済人、学者、教師などが職を奪われた。追放処分を受けた者には戦後日本の復興に欠くことのできない人材も数多く混じっていたが解除が少しずつ認められるようになるのは、1950年に入ってからだった。

 一方で、日本学術会議では当初から共産党の下部組織である「民主主義科学者協会(通称「民科」)」が幅をきかせていた。日本学術会議は再軍備化に対抗して、「軍事技術に貢献する研究をおこなわない」という趣旨の声明を出している。ちなみに、この声明の反復が2017年の「軍事的安全保障研究への声明」である。安全保障について66年ものあいだ姿勢を変えていないのである。

 民科は、1956年のスターリン批判から支持を失い、1960年代にはほぼ消滅したが、1965年に成立した日本科学者会議(通称「日科」)がそのあとを引き継いだ。日科は日本共産党からの一定の影響を受けており、その後もこのような学者組織を使って日本学術会議に一定の影響力を確保するというやり方をとり続けた。

 また、民科なきあとも、その法学者部門である「法律部会」は現在も存続して、護憲運動の頭脳、あるいは運動員組織として活動している。ちなみに、2020年に「任命拒否」された6名のうち松宮孝明氏、岡田政則氏、小沢隆一氏の3名は民主主義科学者協会法律部会の関係者である。

 留意すべきは、GHQが日本学術会議の「産みの親」であっても「育ての親」ではないことだ。マッカーサー自身は日本への当初の偏見を徐々に修正して最終的に日本の再軍備に踏み切るが、日本学術会議はマッカーサーの当初の偏見そのまま受け取り、温存させている。

 初代会長の亀山が吉田首相の民営化に反対する際にGHQの名前を出したことは先述したが、日本学術会議は共産党の思想に影響を受けながら、同時に、政府より力のあったGHQによって誕生したという強いプライドがある。日本学術会議が常に政府に対して居丈高であるのは、この意識が影響していると考えられる。

3.「戦前病」におかされた組織

 日本科学者会議が誕生した1965年は「学生運動の時代」だった。日本共産党は原水爆禁止運動を足がかりに平和運動を広め、ベトナム戦争に対する反戦運動が盛り上がった。日本学術会議の一部が、平和主義や左翼思想にどっぷりと浸かった学生運動のメンタリティを壮年期になっても引きずっていることは、「任命拒否」を受けた学者がテレビカメラの前で怒鳴りながら自己主張している様子からも見て取れる。

 日本学術会議の反政府的な発言に耳を傾けると、そこに「何でも戦前に結びつける」「保守的な政権がやることはすべて軍国主義につながる」といった病的なほどに短絡的な思考が見て取れる。私はこれを「戦前病」と名付けている。

 戦前病になると、与党政治家が安全保障政策を強化しようとすると、どこからともなく「軍靴の音」が鳴り響き、「自分たちがやらなければ、日本は軍国主義になる」と正義の炎を燃やすようになる。そして、これが日本学術会議に現在まで続くガラパゴス的平和主義のエネルギー源となっている。

4.任命権は総理大臣にある

 2020年の菅義偉総理大臣の任命拒否を批判する論拠として、1983年に中曽根内閣の総務長官の丹羽兵助が参議院文教委員会で「形だけの推薦制であって、学会のほうから推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけの任命をしていく」と答弁したことが挙げられてきた。

 この答弁の背景には、推薦候補の中から選挙で選ばれていた日本学術会議の会員が、現役会員からの推薦方式に変わったことがある。推薦方式では前制度より日本学術会議が恣意的に人選しやすくなる。

 だが、日本学術会議会員の地位は特別職国家公務員であり、総理大臣に任命権があることは日本学術会議法に明記されている。総理大臣の任命権に従うのは公務員の義務であり、そもそも人事の理由説明の必要はない。

 また、2003年の中央省庁等改革基本法に基づく総合科学技術会議の最終答申で、「設置形態については、欧米主要国のアカデミーの在り方は理想的方向と考えられ、日本学術会議についても、今後10年以内に改革の進捗状況を評価し、より適切な設置形態の在り方を検討していく」とされたことだ。これに従うなら、日本学術会議は2013年までになんらかの改革がなされてしかるべきである。

5.日本学術会議の速やかな解体を

 日本学術会議のこれまでの提言を見渡しても国民全体が納得できる社会的貢献をしたという事例が見つからない。2000年に考古学界の分野で捏造事件が起こったが、日本学術会議は何の解決策も提言できなかった。近年も、反政府提言ばかりが目立ち、新型コロナウイルス禍についても何の提言もおこなっていないのである。日本のトップクラスの頭脳が集まり海外の知見も熟知しているはずなのに、任命拒否問題への抗議に明け暮れて、日本国民が最も苦しんだ時期に政府機関でもある日本学術会議が何の提言もできなかった。血税より年間約10億円が注がれているが、日本学術会議側は国民の負託に応える気は見えない。

 また、日本学術会議は2021年度約2377億円の巨額の科研費の配分を決定する日本学術会議振興財団の審査委員に対し、各分野の重鎮という立場から影響力を行使している。科研費配分権という巨大利権を通して学術界全体を支配して、アカデミズムが左傾化して、政府の安全保障政策を邪魔して日本の安全保障が立ち後れる根本原因となっている。

 さらには、日本学術会議会員の中には中国人民解放軍のいわゆる「国防七校」の関係団体と関わっており、中国政府の外国人採用計画の「千人計画」に応じる会員おり、自国の軍事研究には反対しながら、中国の軍事研究に協力した事例もある。

 理工学系の科学者の専門は軍民にまたがるものが大半であるが、日本学術会議は軍事研究反対という政治プロパガンダ機関に固執して、研究に支障が出ている学者も少なくない。日本学術会議は人文科学系の共産党系会員の主張に支配されており、理化学系の会員がそれに引きずられ、一部の極左会員の主張が日本学術会議全体の主張となっている。

 日本学術会議を歴史的観点から検証すると、政府機関でありながら、日本人有権者の1%程度の支持率しかない日本共産党の影響を受けすぎている。日本政府は日本の安全保障のためにも速やかに日本学術会議の解体に着手すべきだろう。

―外国人の排斥・差別との批判は不当―

令和5年(2023年)8月

国際歴史論戦研究所 上席研究員

矢野義昭

移民問題は広範多岐にわたる問題であり、単なる人道問題ではない。当面の利益だけではなく長期的な影響、受入れ国の立場だけではなく移民の母国や国際社会への影響、移民の種類、高等人材か単純労働者か、合法か非合法かという視点も踏まえて分析すべき課題である。

 現状では、国際的に広く受け入れられている「移民」の定義は存在しない。以下では、国連の国際移住機関(International Organization for Migration: IOM)の活動のためにIOMにより定められた定義による。

IOMの定義によれば、「移民」とは「国際法などで定義されているものではなく、一国内か国境を越えるか、一時的か恒久的かに関わらず、またさまざまな理由により、本来の住居地を離れて移動する人という一般的な理解に基づく総称」であるとされている。

また、「移民」には、移住労働者のような法的分類が明確な人々や、密入国した移民のように、ある特定の移動の種類が法的に定義されている場合がある一方、法的地位や移動の方法が国際法で特に定義されていない留学生なども含まれる[i]

  なお、移民のごく一部だが、「紛争や迫害や災害など、強制的理由あるいは何らかのひげ的理由で故郷や祖国から移動を強いられる人々」がおり、そのうち国外に出る者を「難民」、国内で移動する者を「国内避難民」と称する[ii]

「難民」は、1951年難民条約の第1条で、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定義されている[iii]

先進国の移民受け入れの実情とその齎す課題

生物は一般にそれぞれに限られた環境を群れ毎に棲み分けて共存を図っている。人類も同様に、各民族や部族はそれぞれの縄張りをもって限られた環境を棲み分け、相互に人々の往来や交易などを通じ交流と共存共栄を図ってきた。

人類は長い歴史の中で文明や王朝の興亡を繰り返しつつ、現在の200近い主権国家の併存体制としての人類社会を形成してきたが、その根底には、この棲み分けの知恵が生かされている。各国はそれぞれが固有の歴史、伝統、文化、言語あるいは信仰を持ち、他国には替えがたいアイデンティティーを保有している。

このような主権国家の併存を否定し、国境を無くして世界統一政府を創ることが、戦争を無くし永遠平和を実現する道だとするグローバリズムの思想もある。グローバリズムによれば、国境の壁を無くし、各国が大量の移民を受入れ、人種、性別、国籍を超えた均一社会を創れば、世界全体が恒久的な共生社会を実現できるとされてきた。

IOMのWorld Migration Report 2020でも、移民が経済発展、イノベーション、統治能力向上、知識普及などに積極的役割を果たしてきたことを強調している[iv]。EUでは、移民政策を推進してきた。1995年に発効したシェンゲン協定によって、EU市民であるかEU域外の外国人(非加盟国籍者)であるかに関わらず旅券検査などの出入国審査(域内国境管理)が廃止され、また、対外的には、シェンゲン協定加盟国共通の短期滞在査証(ビザ)が発効される共通ビザ政策がとられている[v]

特に少子高齢化社会を迎える日本のような社会では、人口減少を食い止めるためにも、移民の中でも「必要な外国人材」を受け入れることが必要とされてきた。

日本でも、2020年7月の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の資料に、「今後、新型コロナウイルス感染症が収束した後には、経済情勢の好転や来日する外国人が急激に増加することが見込まれることから、必要な外国人材を円滑に受け入れられるよう、引き続き外国人材の受入れ環境整備に全力で取り組んでいく必要がある」とされている。その背景には、日本として、今後長期にわたり「必要な外国人材」を積極的に受け入れるという姿勢がある[vi]

日本も既に移民受け入れ大国になっているとの見方もある。2020年時点での世界の移民の総数は2億8060万人、人口に対する比率は3.6%に上っている[vii]。日本は、公式には移民を受け入れていないが、上記のIOMの定義を踏まえ、技能実習生、留学生、不法入国者なども含めれば、2018年時点で日本は移民受け入れを行っている主要な国の中でも第4位に位置するほど多くの移民を受け入れているとみることもできる。

「日本より多い国はドイツが第1位で約138.4万人、アメリカが第2位で約109.7万人、第3位がスペインで約56万人と多くの移民を1年間で受け入れている。日本は52.0万人を2018年に受け入れているが、それ以前から毎年30万人前後の、(IMOの定義に基づく)移民を受け入れてきた。その背景には日本の人口減少などの理由が存在するが、現状として日本は世界的に見て、多くの移民を受け入れる移民大国であることは確かである」との見方もある[viii]

しかし、移民導入には、大きな問題が潜在している。

前記の難民条約第1条でも、「難民が難民ではなくなった場合の規定や、当該個人が、平和に対する犯罪、戦争犯罪及び人道に対する犯罪や、難民として避難国へ入国することが許可される前に避難国の外で重大な犯罪(政治犯罪を除く)を行った場合には、難民条約が適用されないこと」を規定している[ix]

さらに大量の不法入国者や移民が流入すると、単なる治安の悪化や失業問題という域に止まらず、流入国の低所得層と就職先を奪い合い、また賃金低下も齎すことになる。

例えば、「なぜ日本の賃金が上がらないのかというと労働力が「過剰」だからだ。2017年の労働力調査では15歳から34歳の就業者は1643万人と年を追うごとに減っている。ここだけ見れば、「貴重な労働力」なので賃金も上がっていくはずだが、そうならないのは、55歳以上の「高齢労働者」がまだあふれかえっているのと、外国人留学生と技能実習生という「短期移民」が5年前から倍に膨れ上がっているからだ」との指摘もある[x]

地域社会でも受け入れ先のコミュニティのルールを守らないこともあり、例えば環境保護などの面で地域社会に新たな負担や軋轢を強いることにもなる。ゴミ収集の規則を守らない移民への対応、イスラム移民の女性のヘジャプ着用問題などもその一例と言える。移民受け入れは、単なる人道問題ではなく、このような様々の社会的な軋轢やコストを現実に生んでいる。

EUでは2010年末チュニジアで勃発した民主化運動に端を発した「アラブの春」以降、政治・社会情勢が著しく不安定になったアフリカ・中東地域から、移民・難民が密航船でイタリア、マルタ、ギリシャ、スペイン、キプロスなどに押し寄せている[xi]

移民がさらに増えると、特定の地域や業種が移民により占められ、既存の社会から分断されることも生じる。その場合、地域の地方自治を盾に、移民社会の利益になる条例を制定し自治権を確立することになる。それが昂じると、地域の分離独立、あるいは国家の分裂や解体ももたらしかねない。内戦や騒乱になれば、そのような動きを阻止しようとする元々の居住民と移民との内戦あるいは外国勢力の介入による国家間の戦争に発展することもある。

欧州委員会の報告書によると、2060年までにEU加盟国に流入する移民の純増数は合計5,500万人になると予想されており、ほぼ70%が4カ国に向かい、イタリアへ1,550万人、英国へ920万人、ドイツへ700万人、スペインへ650万人が流入すると予測している。2060年にはEUの総人口は、5億2,300万人に増加すると予想されている[xii]

EU加盟国でもフランスはこれまで移民の受け入れに寛容だった。しかしそのフランスの人権諮問委員会が2014年4月、フランス政府に提出した「人種差別報告書」によると、フランス国民の74%が「移民は多すぎる」と考えている。また、国民の77%が「移民は社会的保護を受けるためにだけフランスに来る」と考えているという結果が出ている[xiii]

2004年、2007年のEUの「東方拡大」は、EUの共通移民政策の方向性に大きな影響を与えることとなった。その1つが、既存の加盟国と大きな経済格差のある中・東欧からの大規模の労働力の移動が起きるのではないかという強い懸念であった。つまり、かつての移民の送り出し国(ポーランドなどの中・東欧)であった新規加盟の「域内」から受入国(ドイツ、英国、フランスなど)である既存加盟の「域内」への人の移動の問題である。

もう1つのより重要な問題が、東方拡大によって、EUの境界線の東への移動による「域外」から「域内」への移民の大量流入の問題である。新規加盟した中・東欧を経由して移民希望先(ドイツ、英国などが想定される)を目指して、国境外から押し寄せてくる移民・難民に対する新規加盟国による国境管理の強化とEUレベルの共通政策の徹底によって、EU域内の「自由・安全・司法の領域」の原則が遵守されることが重要であった。というのは、EU域内の人の自由な移動は、一度必要な手続きをとり、合法的に域内に入ってきた第三国民(非加盟国籍者)に対しても認められているからである[xiv]
 2014年の欧州議会選挙では、反移民、移民排斥を最大の争点に掲げるフランスの国民戦線(FN)が、25%の支持票を獲得して第1党に躍進、英国でも反移民・移民規制を主張する英国独立党(UKIP)も第1党に躍進した。好転しない経済・雇用情勢や、移民問題に不満を募らせる世論の支持が強まっていたからである[xv]

すなわち、ルールなき大量移民の流入は、既存の国家社会の分裂や解体を齎しかねない、各国にとり人口侵略という国家安全保障上の危機を招く危険な政策である。

日本の出入国制度の課題と法改正の正当性

 以上のような移民流入に伴う課題は日本でも深刻化している。中でも最も深刻な事態は、現行の日本の出入国管理制度の抜け穴を悪用する者が増加している点である。

以下では、日本の収入国制度の現状とその課題を踏まえ、日本の出入国在留管理、特に外国人の退去強制や難民認定に関連した諸課題について、適切に対応するための法改正の取組について紹介する。

1 日本の出入国在留管理制度の概略

(1) 公正な出入国在留管理

外国人を日本の社会に適正に受け入れ、日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会を実現することは重要だが、どんな人でも入国・在留が認められるわけではない。

 例えば、テロリストや日本のルールを守らない人など、受け入れることが好ましくない外国人については、入国・在留を認めることはできない。

 そのため、日本では、法律に基づき、来日目的等を確認した上で、外国人の入国・在留を認めるかどうかを判断することとしており、入国・在留を認められた外国人は、認められた在留資格・在留期間の範囲内で活動する必要があり、その在留資格を変更したいときや、在留期間を超えて滞在したいときは、許可を受ける必要がある。

以上のように、日本では、在留資格・在留期間等の審査を通じて、外国人の出入国や在留の公正な管理に努めており、このように、その国にとって好ましくない外国人の入国・在留を認めないことは、それぞれの国の主権に属する問題であり、国際法上の確立した原則として、諸外国でも行われている[xvi]

(2)外国人の退去強制

 日本に在留する外国人の中には、ごく一部だが、他人名義の旅券を用いるなどして日本に入国した者(不法入国)、許可された在留期間を超えて日本国内に滞在している者(不法残留)、許可がないのに就労している者(不法就労) 、日本の刑法等で定める犯罪を行い、実刑判決を受けて服役する者たちがいる。これらの行為は、入管法上の退去を強制する理由となるだけでなく、犯罪として処罰の対象にもなる。

 そのようなルールに違反した外国人については、法律に定める手続によって、原則、強制的に国外に退去させることにより、日本に入国・在留する全ての外国人に日本のルールを守るよう努めている。

 ただし、退去させるかどうかの判断に際しては、ルール違反の事実のほか、個々の外国人の様々な事情を慎重に考慮しており、例外的にではあるが、本来退去しなければならない外国人であっても、家族状況等も考慮して、在留を特別に許可する場合もある(在留特別許可)。

 その許可がされなかった外国人については、原則どおり、強制的に国外に退去させることになる[xvii]

 この外国人の強制退去に関する規定及びそれらに基づきとられる措置についても、法治国家として執るべき合規適正なものであり、国内法上も国際法上も何ら問題はない。

(3)難民の認定

 日本は、1981年に「難民の地位に関する条約」(難民条約)、1982年に「難民の地位に関する議定書」に順次加入し、難民認定手続に必要な体制を整え、その後も必要な制度の見直しを行っているところである。

 日本にいる外国人から難民認定の申請があった場合には、難民であるか否かの審査を行い、難民と認定した場合、原則として定住者の在留資格を許可するなど、難民条約に基づく保護を与えている。
 難民には該当しない場合であっても、法務大臣の裁量で、人道上の配慮を理由に、日本への在留を認めることもある。

 なお、ここでいう「難民」とは、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見という難民条約で定められている5つの理由のいずれかによって、迫害を受けるおそれがある外国人のことである[xviii]

 以上の、日本政府が採っている、公正な出入国管理のための審査等の措置は、国内の治安を維持し秩序を守り、一般の日本国民の安全、財産を守るためにも、主権国家として果たすべき、必要な国境管理上の当然の義務であり権利であり、前述した『難民の地位に関する1951年の条約』第1条F項でも認められている。

日本は加入した難民条約、同議定書に基づき、必要な制度態勢を整え、制度の見直しを誠実に履行しており、難民認定の申請者に対しても、必要な保護を与えている。また例外的に難民に該当しない者についても、人道的配慮から在留を認めることもある。このように、日本は、何ら外国人や難民に対する差別的扱いはしていないことは明らかである。

2 現行入管法の課題(入管法改正の必要性)

 

前記の『出入国在留管理庁ホームページ』によれば、現行の入管法には、以下の課題が存在している。

課題➀(送還忌避問題)

 入管法に定められた退去を強制する理由(退去強制事由)に該当し、日本から退去すべきことになった外国人の多くは、そのまま退去するが、中には、退去すべきことが確定したにもかかわらず退去を拒む外国人(送還忌避者)もいる。

 その数は、令和3年12月末時点で、3,224人(令和2年12月末時点よりも121人増)に達しており、中には、日本で罪を犯し、前科を有する者もいる。3,224人中1,133人が前科を有し、うち、515人が懲役1年超の実刑前科を有する者である。

  なお、速報値ではあるが、令和4年12月末時点では、送還忌避者の数は、4,233人まで増加している(1,009人増)。

 現行法下では、次のような事情が、退去を拒む外国人を強制的に退去させる妨げとなっている。
難民認定手続中の者は送還が一律停止
 現在の入管法では、難民認定手続中の外国人は、申請の回数や理由等を問わず、また、重大な罪を犯した者やテロリスト等であっても、退去させることができない(送還停止効)。
 外国人のごく一部ではあるものの、そのことに着目し、難民認定申請を繰り返すことによって、退去を回避しようとする者がいる。

〇退去を拒む自国民の受取を拒否する国の存在
 退去を拒む外国人を強制的に退去させるときは、入国警備官が航空機に同乗して本国に連れて行き、本国政府に引き渡す必要がある。

こうした場合、その本国政府は、国際法上の確立した原則として、自国民を受け取る義務があるが、ごく一部ではあるものの、退去を拒む自国民の受取を拒否する国があり、現行法下では、退去を拒む者をそのような国に強制的に退去させる手段がない。

〇送還妨害行為による航空機への搭乗拒否
 退去を拒む外国人のごく一部には、本国に送還するための航空機の中で暴れたり、大声を上げたりする人もいる。
 そのような外国人については、他の乗客や運航の安全等を確保するため、機長の指示により搭乗拒否されるので、退去させることが物理的に不可能になる。
 1(2)でも述べたように、退去させるかどうかの判断に際しては、個々の外国人の様々な事情を慎重に考慮し、在留を認めるべき者には在留を認めており、送還忌避者は、それでもなお在留を認められない者であるので、速やかに国外に退去すべきである。なお、平成26年から令和3年までの間の在留特別許可率は約7割である。

(2)課題➁(収容を巡る諸問題)

 現行入管法では、退去すべきことが確定した外国人については、原則として、退去までの間、収容施設に収容することになっている。

 そのため、外国人が退去を拒み続け、かつ、難民認定申請を誤用・濫用するなどの事情(2(1)参照)があると、退去させることができないことにより、収容が長期化しかねない。

 収容が長期化すると、収容されている外国人の健康上の問題が生じたり、早期に収容を解除されることを求めた拒食(ハンガーストライキ)や治療拒否など、収容施設内において、様々な問題が生じる原因となりかねない。

 現行入管法下で、収容の長期化を防止するには、「仮放免」制度を活用するしかないが、この制度は、もともと、健康上の理由等がある場合に一時的に収容を解除する制度であり、逃亡等を防止する手段が十分ではない。

 そのため、仮放免された外国人が逃亡する事案も多数発生しており、令和3年12月末時点で、退去すべきことが確定した外国人で、仮放免許可後に逃亡をし、当局から手配中の者は、599人(令和2年12月末時点と比べて184人増)となっている。

 なお、速報値だが、令和4年12月末時点では、その数は、1,410人まで増加している(令和3年12月末時点と比べて811人増)。

(3)課題➂(紛争避難民などを確実に保護する制度が不十分)

 難民条約上、「難民」に該当するには、➀人種、➁宗教、➂国籍、➃特定の社会的集団の構成員であること、➄政治的意見のいずれかの理由により迫害を受けるおそれがあることが必要となる。

 しかし、紛争避難民は、迫害を受けるおそれがある理由が、この5つの理由に必ずしも該当せず、条約上の「難民」に該当しない場合がある。

 現在の入管法では、こうした条約上の「難民」ではないものの、「難民」に準じて保護すべき紛争避難民などを確実に保護する制度がない。

 そのため、例えば、我が国では、令和4年3月以降、令和5年2月末までの間に、2,300人余りのウクライナ避難民を受け入れているところ、現状は、人道上の配慮に基づく緊急措置として、法務大臣の裁量により保護している状況にあり、こうした紛争避難民などを一層確実に保護する制度の創設が課題となっている[xix]

  以上の現行法制上の諸課題は、いずれも本来の法制定時には予測されていなかった課題であり、法規を改正し、その課題を防止する措置を講じなければならない。これは法治国家として当然の措置であり、外国人をことさらに差別するものではない。

特に③の課題は人道上の配慮に基づくものであり、むしろ紛争国からの難民受け入れ枠の拡大のための措置である。

3 入管法改正の基本的な考え方

 今回の入管法改正案の基本的な考え方は、次の3つである。

➀ 保護すべき者を確実に保護する。
➁ その上で、在留が認められない外国人は、速やかに退去させる。
➂ 退去までの間も、不必要な収容はせず、収容する場合には適正な処遇を実施する。

 これらの基本的な考え方に基づき、様々な施策をパッケージとして講じることにより、現行法の課題の一体的解決を図ることを目的としている。

4 入管法改正案の概要等

今回の改正案では、3項の3つの基本的な考え方を実行に移すために、次の(1)(2)(3)に示す様々な方策を講じることとしている。

(1)保護すべき者を確実に保護する。

➀ 補完的保護対象者の認定制度を設ける。

 紛争避難民など、難民条約上の難民ではないものの、難民に準じて保護すべき外国人を「補完的保護対象者」として認定し、保護する手続を設ける。

 補完的保護対象者と認定された者は、難民と同様に安定した在留資格(定住者)で在留できるようにする。

➁ 在留特別許可の手続を一層適切なものにする。

 在留特別許可の申請手続を創設する。在留特別許可の判断に当たって考慮する事情を法律上明確化する。在留特別許可がされなかった場合は、その理由を通知する。

➂ 難民認定制度の運用を一層適切なものする。
  法改正事項ではないが、次のような取組を通じて、難民認定制度の運用を一層適切なものにする。

  • 難民の定義をより分かりやすくする取組
      難民条約上の難民の定義には、「迫害」等、そのままでは必ずしも具体的意義が明らかではない文言も含まれている。そこで、これまでの日本における実務上の先例や裁判例を踏まえ、UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)発行の文書や諸外国の公表する文書なども参考にしながら、こうした文言の意義について、より具体的に説明するとともに、判断に当たって考慮すべきポイントを整理する取組みを進める。
  • 難民の出身国情報を一層充実する取組
     難民に当たるかどうかを判断する上で必要となる申請者の出身国情報(本国情勢等)を充実させるため、UNHCR等の関係機関と連携して、一層積極的に収集する。

・ 職員の調査能力向上のための取組

難民に当たるかどうかの調査を行う当庁職員(難民調査官)に対して、出身情報の活用方法や調査の方法等に関する研修を行うことなどにより、一層調査能力を高めていく。

(2)送還忌避問題の解決

➀ 難民認定手続中の送還停止効に例外を設ける。

 難民認定手続中は一律に送還が停止される現行入管法の規定(送還停止効)を改め、次の者については、難民認定手続中であっても退去させることを可能にする。
■3回目以降の難民認定申請者
■3年以上の実刑に処された者
■テロリスト等

 ただし、3回目以降の難民認定申請者でも、難民や補完的保護対象者と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出すれば、いわば例外の例外として、送還は停止することとする。

➁ 強制的に退去させる手段がない外国人に退去を命令する制度を設ける。

 退去を拒む外国人のうち、次の者については、強制的に退去させる手段がなく、現行法下では退去させることができないので、これらの者に限って、一定の要件の下で、定めた期限内に日本から退去することを命令する制度を設ける。
■退去を拒む自国民を受け取らない国を送還先とする者
■ 過去に実際に航空機内で送還妨害行為に及んだ者

 罰則を設け、命令に従わなかった場合には、刑事罰を科されうるとすることで、退去を拒む上記の者に、自ら帰国するように促す。

 そもそも命令の対象を必要最小限に限定しており、送還忌避者一般を処罰するものではない。

➂ 退去すべき外国人に自発的な帰国を促すための措置を講じる。

 退去すべき外国人のうち一定の要件に当てはまる者については、日本からの退去後、再び日本に入国できるようになるまでの期間(上陸拒否期間)を短縮する。

 これにより、より多くの退去すべき外国人に、自発的に帰国するよう促す。

(3)収容を巡る諸問題の解決

➀ 収容に代わる「監理措置」制度を設ける。

 親族や知人など、本人の監督等を承諾している者を「監理人」として選び、その監理の下で、逃亡等を防止しつつ、収容しないで退去強制手続を進める「監理措置」制度を設ける。

 「原則収容」である現行入管法の規定を改め、個別事案ごとに、逃亡等のおそれの程度に加え、本人が受ける不利益の程度も考慮した上で、収容の要否を見極めて収容か監理措置かを判断することとする。

 監理措置に付された本人や監理人には、必要な事項の届出や報告を求めるが、監理人の負担が重くなりすぎないように、監理人の義務については限定的にする。

 収容の長期化を防止するため、収容されている者については、3か月ごとに必要に応じ収容の要否を見直し、収容の必要がない者は監理措置に移行する仕組みを導入する。

 現行の入管制度は、「全件収容主義」などと言われることがありますが、改正法では、上記のように、個別事案ごとに収容か監理措置かを選択することとなり、これにより、「全件収容主義」は抜本的に改められることとなる。

➁ 仮放免制度の在り方を見直す。

 監理措置制度の創設に伴い、仮放免制度については、本来の制度趣旨どおり、健康上又は人道上の理由等により収容を一時的に解除する措置とし、監理措置との使い分けを明確にする。

 特に健康上の理由による仮放免請求については、医師の意見を聴くなどして、健康状態に配慮すべきことを法律上明記する。

➂ 収容施設における適正な処遇の実施を確保するための措置を講じる。

 常勤医師を確保するため、その支障となっている国家公務員法の規定について特例を設け、兼業要件などを緩和する。

 その他、収容されている者に対し、3か月ごとに健康診断を実施することや、職員に人権研修を実施することなど、収容施設内における適正な処遇の実施の確保のために必要な規定を整備する[xx]

今回の日本の出入国管理法改正案は、悪用されがちな規定を改め、本来の目的を達するための正当かつ公正な法改正であり、一部の不法入国者の訴えるような、不法入国者や外国人に対する人権抑圧の措置ではないことは明白である。

不法入国者の引き起こす問題はそれだけではない。大量の不法入国者たちの背後には、彼らの不法入国を手引きする犯罪組織が存在する。彼らは法外の金銭を要求し不法入国を扇動するため、不法入国者は多額の借金を抱えていることが多い。このため、手段を択ばず入国し借金返済に宛てねばならない立場にある。しかも、不法入国者のため、入国先の国家の保護も母国の保護も受けられず、犯罪者に脅されても訴えるすべもない。

結果的に不法入国を手引きした犯罪組織の手先となり、麻薬密売、人身売買、武器密輸、売春などの組織犯罪の手先となることもあれば、幼少者は人身売買の犠牲になることが多い。このように、不法移民は移民そのものに対し深刻な人権侵害を招いているだけではなく、麻薬密売、人身売買などの組織犯罪集団にとり巨額の闇資金源にもなっている。

以上の観点から見て、不法移民に対し厳正な審査を行い、基本的に受け入れを容認しないことが最善の選択と思われる。

日本政府が今回行う出入国管理法の改正は、『難民の地位に関する1951年の条約』第1条F項に基づく、国際法上認められた主権国家としての条約上の正当な権利である。

また、国内の治安と秩序を守り国民の安全と財産を保護するため法治国家として果たすべき当然の責務を行使するものであり、一部の者や団体が主張するような、外国人あるいはその一部の不法入国者等を不当に差別しあるいは抑圧する措置との非難は当たらないのは明らかである。


[i] 移住(人の移動)について | IOM Japan 国際移住機関 日本(2023年8月7日付のIOM Japanの回答)。

[ii] IOM, World Migration Report 2020, June 1, 2020, p. 19.

[iii] 難民条約について – UNHCR Japan as of August 7, 2023.

[iv] IOM, World Migration Report 2020, Chapter 6-7.

[v] 大量の移民流入、連鎖する反移民に苦慮する欧州―内政を不安定にするリスクの高まり― - 一般財団法人国際貿易投資研究所(ITI)、2023年8月8日アクセス。

[vi] 劉洋「日本に長期居住する外国人と日本人との格差:失業率に着目した考察」『新春特別コラム』独立行政法人経済産業研究所、RIETI - 日本に長期居住する外国人と日本人との格差:失業率に着目した考察、2023年8月8日アクセス。

[vii] International Data | Migration data portal as of August 7, 2023.

[viii] 日本は移民大国?人口の減少と外国人労働者 (gooddo.jp)、2023年8月7日アクセス。移民の定義の出典は、OECD, International Migration Outlook 2020.

[ix] 『難民の地位に関する1951年の条約』第1条F項。

[x] だから「移民」を受け入れてはいけない、これだけの理由:スピン経済の歩き方(6/7 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン、2023年8月7日アクセス。

[xi] 大量の移民流入、連鎖する反移民に苦慮する欧州―内政を不安定にするリスクの高まり― - 一般財団法人国際貿易投資研究所(ITI)、2023年8月7日アクセス。

[xii] Financial Times (December8,2014).

[xiii] 田中友義「変わるフランス人の『人権・平等』意識、揺らぐ政府・EUへの信頼感-反移民・反EUポピュリズムに共感する世論-」(『フラッシュNo. 205』2014年9月10日)。

[xiv] 正躰朝香「 移民政策のヨーロッパ化―EUにおける出入国管理と移民の社会統合をめぐって」(世界問題研究所紀要、京都産業大学、第28巻、2013年2月号)、175ページ。

[xv] 田中友義「反移民・反EUポピュリスト政党躍進の経済的・社会的背景-欧州議会選挙とフランスの事例からの検証-」(『季刊国際貿易と投資』国際貿易投資研究所、2014年秋号、No.97)75~91ページ。

[xvi] 『出入国在留管理庁ホームページ』、入管法改正案について | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)、2023年8月7日アクセス。

[xvii] 同上。

[xviii] 同上。

[xix] 同上。

[xx] 同上。