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日本解体をねらう「反差別闘争」の危険性と戦い方

令和6年(2024年)2月

国際歴史論戦研究所 上席研究員

仲村覚

【英語版】https://i-rich.org/?p=1930

■反戦平和運動から反差別闘争にシフトした革命闘争

 2010年代の辺野古闘争から使われ始めている新たなキーワードがあります。それは、「沖縄差別」という言葉です。それは「日米安保の重要性は理解するが、沖縄に過剰な基地を押し付ける差別は許さない」というロジックです。日米安保反対を県民に扇動しているのではなく、差別は許さないという感情を煽って扇動しているのです。

 その被差別意識を醸成するために、「琉球処分」とか第二次大戦で沖縄を「捨て石」にしたというストーリーを使って、「沖縄は常に日本の差別的植民地支配を受けて、それは今も続いている」と主張します。

また、「沖縄県外の人たちは、沖縄を差別しているとは自覚は無いまま、国家の利益のために沖縄を差別している。これを「構造的差別」というと新たな専門用語も使われ始めています。そして、沖縄の未来のためには、沖縄の自己決定権を回復するしか無い、という運動目標を提示しているのです。

つまり、沖縄の反基地運動は、かつての日米安保の破棄を目指す「反戦平和運動」から、沖縄差別の解消をスローガンにした「反差別闘争」に完全にシフトしているのです。

■国連勧告を利用した反差別闘争

 2008年より国連の自由権規約委員会及び人種差別撤廃委員会より、日本政府に対して「沖縄の人々を公式に先住民族と認めてその権利を保護するべき」との勧告が合計6回出されています。日本政府は反論していますが、繰り返し出されるということは、国連は沖縄の人々を先住民族と認識は揺らいでいないということです。この勧告が危険なのは、2007年に日本政府も賛成して採択された「先住民族の権利のための国際連合宣言」に連動していることです。その第30条には、「先住民族先祖伝来の土地、領域では軍事活動は行わない」という条文があり、また、軍事活動を行う場合は、先住民族のリーダーとの効果的な話し合いが必要とあります。つまり、国連の認識では、沖縄の人が米軍基地は不要だと言い出せば、それに対応した行動を取らない日本政府は「先住民族の権利のための国際連合宣言」に違反していると見なされることになるのです。

また、中国はそこに乗じて、琉球は古来より中華民族の一員で、日米からの独立運動を続けており、中国人民はそれを支援しなければならないなどと国内外にプロパガンダを発信していますので、台湾有事の際、この「反差別運動」は中国が沖縄の主権に口出ししたり、手出ししたりする口実に利用される可能性が極めて大きいといえます。

■定義があいまいなヘイトスピーチを利用して階級闘争を煽る日本のマスコミ

 日本政府においては危険な法律や条例も作られ続けています。代表的なものが「ヘイトスピーチ解消法(通称)」です。正式名称は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」といい、本邦外出身者、つまり政府が日本における少数民族と認めているアイヌや在日朝鮮人等に対する差別的言動の解消に対しての取り組みを決めた罰則の無い理念法です。差別的言動を解消するという目的事態は否定できないのですが、これは悪用されるリスクの高い法律であり、事実、悪用されています。

法律では本邦外出身者に対する差別的言動の定義がされていますが、日常ではほぼ同義語の「ヘイトスピーチ」という用語が使われています。法務省の人権擁護局では「ヘイトスピーチ」の事例は示されているものの明確な定義はありません。法務局に確認したらヘイトスピーチという用語の使い方に意見を言う立場にないとの回答だったのです。事実上の回答拒否です。

そのため、沖縄県民は本邦外出身ではないにもかかわらず、「沖縄ヘイト」という言葉がまん延しています。それを根拠に「県は、県民であることを理由とする不当な差別的言動の解消に向けた施策を講ずるものとする。」という条文が盛り込まれて「沖縄県差別の無い社会づくり条例」が令和5年4月に施行されました。これらの法律や条例を根拠に差別闘争の手法や行動を批判するものとターゲットに、ありもしない差別をでっちあげ、「◯◯が差別した。」「◯◯の発言はヘイトスピーチだ!」とレッテル貼りの批判をする人やマスコミが現れ、誰も改善を求めることができなくなるのです。

■沖縄についての「世論戦」をどのように戦うか

 中国人民解放軍の教範には、「三戦」が謳われています。「世論戦」「心理戦」「法律戦」です。人民解放軍は、これらの戦は、「中央軍事委員会の戦略的意図と作戦任務に基づき行われる戦闘行動」と定義されています。これらは密接に関わり合っていますが、今の沖縄で最も重要なのが政治に大きな影響を与える「世論戦」です。そして昨今、「琉球の人々は琉球王国時代から日本に差別され続けており、再び戦場にされようとしている。戦争を回避するためには沖縄の自己決定権を回復させなければならない」というストーリーに基づいた世論戦が仕掛けられているわけです。残念ながら現在の日本では、自衛隊を始めどの情報機関も世論戦に対して防衛を遂行する任務を持つ機関も能力を持つ機関も無いのです。中国の三戦に対しては、民間人が立ち上がって戦うしかありません。しかも、台湾有事の危険性が近づいた今、沖縄の世論戦は国防最前線だといえます。

更にその世論戦の裏で沖縄の人々を先住民族とする国連勧告が出されているのです。この勧告はほとんどの沖縄県民は自らのアイデンティティーにかかわる当事者であるにもかかわらず、みごとに隠蔽されて知らされていないのです。徹底的に隠蔽されている理由は、99%以上の沖縄の人々は日本人とのアイデンティティーを持っているため、扇動に失敗することをわかっているからです。

ここに、劣勢に追い込まれながらも世論戦を優位に戦う切り口があります。もし、この勧告の存在や「反差別闘争」の目的と危険性を多くの沖縄県民に知らせ、「先住民族だと思う人はあちらの候補へ、日本人だと思う人はこちらの候補に入れてください!」と選挙の争点にまで持ち込むことができたら、一気に形勢を逆転させることができると思うのです。そして「ヘイトスピーチ」という便利なツールを獲得した差別反対闘争勢力でも、「我々は日本人だ。国連勧告は間違っている!」と主張する人を「ヘイトスピーチだ!」とレッテル貼りをすることはできないからです。

ただ、テレビ新聞のほとんどは「反差別運動」側の陣営にありますので、我が陣営の世論戦の活動は、ネット拡散、チラシ配布、街頭演説という限られた手段しかありません。しかし、もし、日本の人口のわずか1%に過ぎない沖縄に対し、残りの99%の全国の愛国者が一丸となって戦えば、沖縄県民を目覚めさせ、沖縄の世論戦に勝利を収めるものと確信しております。日本国民全体の自覚を期待します。