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ラムザイヤー論文をめぐるシンポジウムを終えて

令和3年7月26日
会長 杉原誠四郎

当研究所は日本と日本人の名誉と尊厳を守るために、公正な歴史研究を元に、国際的な歴史論争に挑み、正しい歴史認識を打ち立てることを本旨としている研究所です。混迷する慰安婦問題の解決も大きな役割としています。

世の中に歴史をめぐって、事実にそぐわない非難、中傷、そして事実に根拠のない敵意のためだけの抗議があり、世の中を混迷に陥れています。 今日の慰安婦問題はまさにそうした問題の典型的例の1つです。

そうした問題が起きているとき、歴史研究者の責務は、事実は何かを究明し、その事実に関わる相対的関係(慰安婦問題の場合、他国の軍隊ではどうであったか等の相対的関係)を究明し、更には当時の価値観を究明することです。事実に根拠を置かない、相対的関係を無視した、更にはその当時の価値観を考慮しない、非難、中傷、抗議等が行われれば、その不当性を明らかにし、そのことによって、人と人、国と国との平和的関係の構築し、21世紀の人類の平和的発展に資するのが歴史研究者の使命です。そのために歴史研究者には「学問の自由」が保障されています。

しかるに今日の歴史研究者の中には、その責務と使命を放棄している研究者がいます。歴史における、事実と、その相対的関係と、当時の価値観とを無視して、非難、中傷、抗議の運動に自ら加わり、人類の平和的関係、平和的発展を妨げ、そのことによって研究者の使命を放棄している研究者です。研究者として「学問の自由」を保障されながら、このような運動に関わり騒乱を一層大きくすることは、「学問の自由」を保障された研究者としては一種の犯罪行為であり、「学問の自由」を自ら毀損する者として、もはや研究者とは呼ぶことのできない研究者です。

この度、慰安婦問題において、アメリカ、ハーバード大学ロースクール所属のマーク・ラムザイヤー教授のゲーム理論に基づいて解明した客観的な研究論文につき、研究者の間で騒乱が起こっています。研究上の事実に関わる議論では無く、唯にこの論文を撤回するよう求める署名運動が歴史研究者の間で起こっており、2021年5月現在、アメリカ内外で3665人が署名しています。

事実による議論ではなく唯に署名を集めて撤回を求めるこのような運動は、公正なる議論に反しており、「学問の自由」を根底から覆すものです。「学問の自由」が保障された学術界にはあってはならないことであり、学術研究としては絶対に認められないことです。

そこで当研究所は4月24日、東京星稜会館にて、このような学術界の動きに抗議し、ラムザイヤー教授を励ますため、緊急シンポジウムを開催しました。この研究集会に集まっていただいた日本の研究者は、この慰安婦問題に関係してまさに最高に精鋭の研究者であり、研究集会としては慰安婦問題をめぐる日本で最高の研究集会といえるものになりました。シンポジウムには、ラムザイヤー教授からもビデオ・メッセージによる参加があり、韓国からも慰安婦問題の研究では著名な李宇衍博士からビデオ・メッセージによる参加があり、まさに国際的にも最高の研究集会といえるものになりました。

併せて、折しも令和2年末、会員任命問題で注目を集めている日本学術会議に向けて、6月3日付で公開質問状を送り、日本の名誉に関わる慰安婦問題で、ラムザイヤー論文に対する不当な撤回署名運動が起きていることに対して、何らかの批判的対応を取るよう要請しました。更に、研究所では同日記者会見を開き、このことを世間に訴えました。

しかるに日本学術会議からは回答期限6月30日まで一切回答はありませんでした。

日本学術会議からの無回答は、日本の学術研究のために公費で賄われている日本学術会議としては、あまりにも不誠実な対応です。このままでは日本学術会議は、日本の名誉に関わる慰安婦問題につき、「学問の自由」を侵し、署名による撤回運動が行われていることを黙認することとなります。そうだとすれば日本学術会議は公費で賄う根拠を失うものと見なさなければなりません。

よって、7月9日、改めて6月3日付けの質問に答えるよう再要請するとともに、その後に判明した事実を踏まえて新たに質問を追加して、再度、公開質問状を送りました。

当研究所としては、日本学術会議が公正に組織化され、公正に運営され、国民の期待に応えて、真に「学問の自由」を享受して、学術の進歩に寄与する組織たることを願っています。学術研究における「学問の自由」が保障するに当たっては、①研究者の倫理が明らかにされておくこと、②研究者倫理に反する不祥事が生起すれば、これに対しては解決するための制度ができていること、③極端に異なる学説に対しては異なる学説の結論が少しでも収斂していくべく働きかけることのできる制度ができていることが必要です。日本学術会議が国費によって運営されるならば、日本学術会議は、こうした3つの役割を果たしていかなければならないものといえます。日本学術会議では、すでに①では、研究者の研究規範については「科学者の行動規範」を平成18年、改訂版は平成25年に定められていますが、②、③の役割が果たされるような制度が未だ全くできていません。

今回のラムザイヤー論文撤回要求の署名運動は、7月9日の記者会見で研究所より縷々説明しましたが、明らかに日本学術会議の定めた「研究者の行動規範」に反している行為です。このような「行動規範」に反する行為を事実上黙認するような状態が続くのであれば、日本学術会議はまさに国費によって賄われるべき組織ではないことを明らかにすることになります。そして日本政府は、年間10億円を超える予算を削るべきだということを明らかにすることになります。

当研究所は、日本学術会議が国費によって賄われるに相当する組織になり、「学問の自由」を真に尊重して運営されるように改革されるべく、最後まで追及していくことを決意しています。国民の皆様の広い支援をお願いします。