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日本学術会議を「国の機関」から排除すべき理由

令和6年(2024年)2月

国際歴史論戦研究所 ゲスト・フェロー

白川司

【英語版】

■「学術会議の在り方問題」が決着へ

 日本学術会議について、政府は現在の「国の機関」から「法人格を持つ国から独立した組織」に改める方針を決めたことが、2023年12月22日の松村国家公安委員長の記者会見で明らかにされた。2020年10月の菅義偉内閣による「任命拒否問題」から続いてきたこの問題は、次の岸田文雄内閣で一定の解決に向かって進み出した。

 日本学術会議はこれまで会員選考について政府と何度も対立してきた。同会議は国の機関であり任命権は総理大臣にある。だが、同会議は推薦した第一候補者を拒否することを全く受け入れてこなかった。だが、国から独立するのであれば会員選考も自立的に行えるので、今後はこのような対立はなくなる。

 日本学術会議はこれまで年10億円の支援を国から受けてきたが、今後はそれが縮小されていく。当面は財政支援を受けながら、財政基盤の多様化を試行錯誤していくことになる。同時に、運営の透明性を高めるしくみも検討していくという。

 この決定を日本学術会議は未だに承服はしておらず、同会議の意見を一部取り入れる必要は出てくる可能性もあるが、決定自体を覆すのは困難であろう。

■「任命拒否問題」の本質と思わぬ副次効果

 上述した菅義偉内閣による「任命拒否問題」の前に、日本学術会議改革の舞台を整えていたのが安倍晋三首相(当時、以下同)だった。

 両者の衝突は2度あった。1度目は2016年で、会員の3ポストの欠員が出たときの補充人事で、安倍首相はうち2ポストを第二候補に差し替えるよう要求。二度目は2018年で、11ポストの補充人事のうち1ポストを第二候補に差し替えるよう要求した。押し問答の末、どちらも日本学術会議側が人員補充自体を取り止めて決着している。

 ここで注意すべきは、日本学術会議が1ポストにつき2名の候補を立てていながら、実際は第一候補しか認めないことだ。同会議はこのやり方を何十年も貫き、政府や文部省(当時)や同会議や関連組織で第一候補を外そうとすると激しく抵抗してきた。表向きは2候補でも、実情は同会議の指命に過ぎなかった。

 3年に1回行われる会員の半数改選でも日本学術会議は同様の手法をとってきた。

 2017年の会員改選の折、安倍首相の要請により、日本学術会議は定員105名に対して110名を推薦するようになり、総理に5名の拒否枠を提示するようなった。だが、実際には日本学術会議側は「任命されるべき105名」を指定しており、残りの5名は任命する気などない形だけのものだった。

 2020年に「任命拒否」が起こった背景に、この前例を破って日本学術会議側が定員ぴったりの105名しか推薦しなかったことがある。

 平たく言うと、前首相との約束を破り、菅義偉首相(当時、以下同)に喧嘩を売ったわけである。これを受けて菅首相は任命拒否を「6名」に拡げて喧嘩を買う形となった。

 だが、この問題は思わぬ副次効果を生んだ。それは、日本学術会議と共産党のつながりが一般にも知られるようになったことだ。菅首相はこの問題で野党とマスコミに集中砲火を浴びたが、同時に日本学術会議も共産党も最大の懸案だったCOVID19のパンデミックそっちのけで、政府批判ばかりを繰り返した。

 だが、共産党が必死になるほどに日本学術会議との強い関係があぶり出されて、日本学術会議に反感を持つ人たちが増えることとなったわけである。

■国からの独立が必要な理由

 日本学術会議は小林内閣府特命大臣(科学技術政策等)にあてた2023年7月25日付の書面で軍民両用技術の研究について、「軍民両用と軍事に無関係な研究を明確に分けるのは困難」という認識を示し、多くのマスコミがこれを受けて「同会議が軍事研究を許容した」と報じた。

 この報道を受けるなり、日本学術会議は改めて1950年の立場を堅持することを主張する。その後、軍民技術を分けることは困難である見解を再度示したものの、同会議が共産党的「戦後平和主義」を手放す気がないことが明白になった。この期に及んでも戦後平和主義のイデオロギーに支配されており、国の機関としての役目を全うする気がない。

 日本学術会議は設立当初から「軍事研究は戦争の原因になる」という立場を貫き、1950年、1967年、2017年と3度にわたり軍事研究を行わない旨の声明を発表している。

 だが、軍民両用技術は今後の経済発展の根幹をなしているインターネットやAI、ドローンなどの技術が含まれている。日本はこれらの分野でアメリカから後れをとっており、中国にも差をつけられ始めている。官民が一体となって技術力を高めなければ国際競争についていけない。

 また、日本学術会議は2015年に中国科学技術協会と協力覚書を締結しており、同協会人民解放軍直轄の軍事科学院と間接的に人的交流があることから、そこに協力すれば中国の軍事技術に貢献するリスクがある。  日本学術会議が中国の軍事研究に協力的でありながら、日本の軍事研究は非協力的である。このように日本にとって害悪のある組織なのであれば、国からの独立させるのは当然だ。一日も早い国からの独立を望む。