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戦後80年の南京プロパガンダ

国際歴史論戦研究所
顧問 阿羅健一

 昭和五十七年、近隣諸国条項により南京事件が教科書に記述されだしたとき、日本政府の中国に対することなかれ主義から来るものとみられていたが、いまや南京事件は中国人が中国にいる日本人を襲う大義名分として用いられ、台湾有事の前哨戦ともいうべき情報戦で重要な武器に使われている。

 昨年十二月十三日、中国にある日本人学校が休校かオンライン授業となるなか、日本にある中国大使館は南京事件の犠牲者への追悼を呼びかけ、中国にいる日本人児童が心配された。今年七月二十五日に中国で公開された映画「南京写真館」は記録的大当たりとなり、赤ん坊を叩きつけ、磔の中国兵を銃剣で突き刺す場面が流れ、日本人を憎悪する中国人が激増、心配はいっそう増した。

 昨年十二月十三日、琉球新報は第一面と第二面に南京戦へ従軍した兵士の軍隊手帳を掲載した。沖縄県の若者も支那事変とともに動員され南京戦に参加した。だれでも知っていることで、その事実が軍隊手帳に記されていることが、虐殺を見聞したかのような大きい記事となり、琉球新報の社説はいつまた虐殺が行われるかわからないとし、さらに、「ひるがえって現在。日米軍事演習で民間港湾や空港、公道を大っぴらに使用する。『有事』に備えるためとして自衛隊基地も拡大する」と訓練反対の主張をした。今年九月二十六日のTBSラジオ「萩上チキ・Session」では、ジャーナリストの青木理が「沖縄戦と南京事件」と題して語り、南京事件は国のため中国人を殺し、沖縄戦は自国民を守るという名分で自国民を虐殺した、と語った。沖縄が標的にされているのは明らかである。

 中国による南京事件を使っての情報戦はここまで浸透し、日本を圧倒している。それだけでなく、九月十七日には日本にある中国大使館が「南京写真館」の試写会に百五十人を招いた。招待客から日本の残虐性が漏れ、東京でも大っぴらに情報戦が繰り広げられている。「南京写真館」はアメリカやカナダなど世界各地で上映され、アメリカ人も涙をながし、「レイプオブ南京」を知らない世代が日本人はきわめて残虐であるという偏見を抱き、日本以外でも展開されている。

 戦前は宣伝戦いまでいう情報戦がきわめて重要であると一般誌上で毎月のように説かれた。負けたことにより軍備がタブー視され、宣伝戦そのものは忘れさられた。そのこともあって日本は攪乱工作されるがままである。 南京事件に関するここ数年の日本政府の動きを見ると、令和五年四月三日、参議院決算委員会で和田政宗議員が南京事件を記述する外務省ホームページについて「根拠となる文書は外務省内に存在するんでしょうか」と質問すると、林芳正外務大臣は「この資料ですが、外務省が作成したものは確認できておりません」と答えた。

 そのさい林芳正外務大臣は政府機関で作成した「戦史叢書 支那事変陸軍作戦(1)」に該当する記事があると答弁したため、和田議員が「私、関連文書を全部読みましたけれども、意図的に日本軍が殺害したとの明確な記述はない状況でありました」と厳しく反論した。四月二十四日にも再度質問して念を押した。

 外務大臣が言い訳を繰り返すので、令和六年一月二十六日に神谷宗幣議員が質問主意書を出し、「戦史叢書 支那事変陸軍作戦(1)」が根拠とするならホームページの根拠は欠けている、と質問すると、政府は戦史叢書に限らず総合的に判断したものだと答える。神谷議員は二月二十八日にもあらためて質問主意書を出した。令和七年五月十三日には浜田聡議員が「日本軍が非戦闘員の殺害や略奪行為等を指示したことを示す公文書は存在するか」と質問主意書を出すが、政府は答えず、六月十七日に再度質問主意書を出すと、やはり「具体的に意味するところが明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である」と逃げた。

 もともと近隣諸国条項は南京事件の根拠があって定められたのでなく、そのため自由社の教科書のように南京事件を記述しなくとも検定に合格するようになり、いまではホームページが根拠あって記述されたわけでないことが明らかになった。それにもかかわらず外務省はホームページを抹消しようとせず、南京事件を認めたままである。

 「南京写真館」の製作情報が流れてきたとき、虐殺現場を写した日本軍のネガを南京市民が持ち出すというあらすじから、昭和二十二年の南京軍事裁判に提出された十六枚の写真を主題とした映画とわかる。十六枚のネガは南京市民が持ちだしたとして南京軍事法廷に提出され、法廷は証拠として認めたが、厳冬の南京でありえない写真があり、日本軍が撮影した記録もなく、つくり話であることが明らかである。七十年経ち中国が十六枚の写真をユネスコ世界遺産の資料として登録したさいも否定された。中国で封切られるころネットでは疑問点が指摘され、八月六日付け産経新聞の「サンデー正論」は問題点を浮き彫りにした。それでも外務省はなんら手を打たない。

 外務省が南京事件を強制したのは四十年以上まえのことである。南京事件は、天安門事件に対する制裁解除や天皇陛下御訪中のような誤判断でなく、根拠もなく中国のいうまま認めたものである。当時の関係者はいまではひとりもいない。アジア局もアジア大洋州局と変わった。外務省は過去にとらわれる必要はない。中国にいる日本人を保護しなければならないし、中国が仕掛ける情報戦に対処しなければならない。事実に即し、ただちに南京事件の方針を変えるべきである。躊躇する余裕はない。