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李在明政権と日韓関係

【英語版】https://i-rich.org/?p=2404

国際歴史論戦研究所
上席研究員 松木國俊

 去る6月3日、韓国では尹錫悦大統領の罷免に伴う大統領選挙が実施され、大方の予想通り「共に民主党」の李在明氏が当選し、政権を掌握した。これから李在明政権はどこに向かうか、そして日本はいかに対応すべきかについて、私の見解を述べてみたい。

李在明独裁政権の誕生

まず確実なことは、韓国においてすべての権力が大統領に集中するということだ。行政府は当然ながら大統領自身が直接取り仕切る。首相以下の閣僚、情報機関である国家情報院のトップもすでに側近で固めた。

立法府については、与党である「共に民主党」が国会議員の絶対多数を占めており、大統領が提示する法案や予算案、さらに人事案もすべてフリーパスだ。

司法面ではどうだろう。最高裁判所に相当する大法院の長官は大統領が指名し、国会の承認を得て就任する。現在の長官は保守系だが2年後の2027年6月で任期切れとなり、次の長官は事実上李在明氏が決めることになる。他の裁判官についても、12人中9人が李在明大統領の任期中に任期満了で交代する。大法院の裁判官は大法院長官の推挙により国会の承認を得て大統領が任命するため、後任は政権寄りの人物が占める確率が高い。

次に憲法裁判所であるが、同裁判所は大統領、国会、大法院長官がそれぞれ三人ずつ選出した計九人の裁判官で構成されている。従って2027年6月の時点で李在明大統領系の大法院長官が就任すれば、ほぼ全員を李在明系の裁判官が占めることになるだろう。

第四の権力といわれるマスコミも状況は同じだ。KBS、ⅯBⅭ等の公共放送局の理事会メンバーは、政府機関である韓国放送通信委員会(KCC)の推薦を受けて大統領によって任命される。結果的に李在明大統領の意向に沿った人物が理事に選ばれることになり、公共放送は政権の宣伝機関以外の何物でもなくなる。李在明政権はブレーキ不在の独裁的政権となる公算が極めて高い。

反日扇動で国民を糾合

韓国内では高止まりした若年失業率や社会的格差の拡大、世界でも並外れた少子化の進行など、深刻な社会問題が蔓延している。さらに輸出依存型の国家経済が行き詰り、今年第一四半期の経済成長率はマイナス0.2%に落ち込んでしまった。すべて構造的問題であり、一朝一夕に解決することは出来ない。先行き不透明感が募る中で、国民の不満は必然的に李在明政権に向かうことになる。

韓国内の保守勢力も黙ってはいない。もともと李在明氏には多くの疑惑がある。京畿道知事時代の北朝鮮への不正送金や城南市長時代の都市開発に関わる不正などをめぐり、現時点で5件の裁判を抱えている。大統領には「不訴追特権」があるが、訴因が大統領就任前に発生したものに対してもこれを適用出来るかは法的にあいまいであり、これから保守勢力は李在明政権のアキレス腱とも言えるこれらの疑惑を徹底的に追及するはずだ。

先の大統領選挙の得票数を見ても40%以上が「反李在明票」であり、保守派が勢力を盛り返して次回2028年の総選挙で圧勝すれば、国会での李在明大統領の弾劾発議もあり得る。憲法裁判所の人事を押さえていても、「反李在明」の世論が盛り上がり、裁判官がこれに迎合すれば弾劾が成立するだろう。

李在明大統領がそのような「危険性」を回避するためには、世論を手なづけ、次の総選挙でも政権与党に勝利させねばならない。だが現政権が短期間で国民が納得する成果を上げるのは極めて困難である。ならばすでに決着している過去の歴史問題を蒸し返し、反日感情を煽って国民の不満を全て「日本への怒り」へと転化させる以外に手はない。

口先で日韓協調路線を唱えてはいても、李在明氏の本性が「親中・反日」であることは過去の言動を見ても明らかである。選挙公約の中でも李在明氏は「元慰安婦の名誉を回復し、補償を最大限引き出す」と明言しており、「公約の実行」を口実に、2015年の日韓合意により最終的かつ不可逆的に解決した「慰安婦問題」を再び持ち出して、「謝罪と賠償」を日本側に求めてくるのではないだろうか。反日感情の強い韓国では、日本に強硬に出れば出るほど大統領の人気は上昇する。これで次の総選挙でも与党勝利は間違いないだろう。

そして彼が次に狙うのは、韓国憲法の改正である。韓国憲法では大統領の任期は五年に限られ再選はない。これまで韓国の歴代大統領の多くが退任後に有罪判決を受け、悲惨な末路を迎えている。李在明氏も大統領を退任すればただの人に過ぎない。叩けば埃のでる体であり、いくつもの罪に問われて破滅するのが目に見えている。

それを避ける道は大統領再選しかない。韓国大統領は憲法改正の提案権を握っており、李在明氏が「アメリカと同じように再選可能にしよう」と提案すればおそらく通るはずだ。彼は自身が築き上げた独裁体制下であらゆる手段を用いて二期目を勝ち取り、最終的に終身大統領への道を開くことさえ考えるかもしれない。

日韓が協力し独裁にストップをかけよう

だがそのような独裁的体制は韓国の「自由と民主主義」に死をもたらすことになる。立法も司法も政権の手中にあり、反政府的な活動が合法的に弾圧されるようになれば、言論の自由はなくなり、共産主義体制と何ら変わらなくなるのだ。

そればかりではない。李在明政権が突き進むであろう「親中・反日」路線は日米韓の連携を弱体化させ、最悪の場合、韓国は国ごと中国に飲み込まれる恐れさえある。

そうなれば日本は中国という覇権国家と直接対峙せざるを得ず、日本の自主独立が脅かされる事態となる。ならば日韓の国民は協力して李在明独裁体制に何としてもストップをかけなければならない。

李在明氏が韓国民を糾合するために「反日感情」を利用するであろうことはすでに述べた通りである。だがその「反日感情」とは歴史を歪曲した反日教育によって刷り込まれた「逆恨み」(unjustified resentment)に過ぎない。幸い、韓国においても少数ではあるが、このことを指摘する研究者が現れた。元ソウル大学教授である李栄薫氏が執筆・編集した『反日種族主義』は、反日教育における歴史歪曲を具体的に論破しており韓国内でベストセラーとなった。

反日教育で「性奴隷」と教えられた慰安婦が、実は単なる売春婦だった事実も多くの韓国の人々が知るところとなり、各地に建てられている慰安婦像の撤去を求める韓国人による市民運動も拡大している。さらに若い人々の中にはSNSなどで多くの情報に接し、反日教育の内容に疑問を抱く人も増加している。

日本がやるべきことは、このような新しい波が韓国中に拡大するように援護射撃をすることである。李在明政権が両国間ですでに解決済の歴史問題を蒸し返してくるならば、日本は真実をもって逐一反論しなければならない。李在明氏の主張する反日的歴史観が嘘であることを白日の下に晒さらせば、「反日感情」を土台とする彼の権威は失墜し、韓国保守派の巻き返しのための道が開ける。李在明氏の弾劾もあり得るかもしれない。

日韓両国民の未来のために、私は国際歴史論戦研究所の一員として韓国の同志と共にこれからも全力を尽くす所存である。合わせて日本国政府が国益を守る覚悟を決め、毅然として李在明政権に向き合い、その重大な責任を果たして行くことを願ってやまない。