書評 呉善花『なぜ反日韓国に未来はないのか』(小学館 2013年)
評者 ゲストフェロー 宮本富士子
韓国で反日の嵐が吹き荒れた文在寅政権時、まさに高麗連邦が誕生するかもしれないという危機感の中、国民は文在寅政権打倒のために文氏の在任期間中ソウルの光化門で毎週末大規模集会を続けてきた。また知識人たちは韓国人の骨髄までしみ込んだ反日フレームを拭い去るために各地で講演会を開いたり有名大学では正しい歴史認識を学ぶための真実フォーラムが開催されたりもした。
そしてこの日韓関係の危機を克服するために2019年に日韓危機の根源を突く本として李栄薫編著『反日種族主義』(未来社 2019年)が韓国で発刊され、約10万部のベストセラーとなった。同年、日本でも翻訳され『反日種族主義-日韓危機の根源』(文芸春秋 2019年)として出版された。6名の学者が立ち上がって書いた著書だ。それぞれの専門分野でいかに韓国の反日思想が荒唐無稽なのかを史実に基づいて分析した画期的な本だった。韓国でも大きな話題を呼んだが、結果として韓国人の反日感情は変わっただろうか。
が、学校教育での歴史教科書での日本悪玉論は今現在も変わらず、反日教育は依然と続けられている。全く変わってないのだ。私も内心で韓国人の根深い反日思想はそうやすやす変わるものではないと感じてきた。
韓国人の夫を持ち30年以上韓国社会の中で暮らしてきた私は「日本は台湾を朝鮮よりも長く統治し、台湾よりも莫大な投資をしたのにも関わらず、かたや台湾は親日、韓国は反日の理由はどこにあるのか、何がそうさせるのか?」と常に疑問を感じてきた。
その疑問に見事な回答を与えてくれたのがこの呉善花氏の2013年に出た著書『なぜ反日韓国に未来はないのか』(小学館 2013年)である。6章からなる分析は深く緻密になされ見事であり完璧だ。日本の大部分の有識者の見解は「日韓併合時代に生きた朝鮮の人は親日で戦後の李承晩政権から今日に至るまでの大統領の反日政策、反日教育によって韓国は反日国家となった」である。しかし、まず呉善花氏は「韓国の反日主義は単なる一つの政治政策ではない。重要なことは韓国は反日主義を国家の大義名分として出発した国家」とし、韓国憲法の前文自体が偽りであり、よって史実を捻じ曲げ、国民に対して徹底的に教育宣伝していったと指摘した。
この本は2013年に発刊されていて『反日種族主義』より6年も前だ。『反日種族主義』は代表的な反日の6つのテーマにおける歪曲された内容と実際はどうだったのかを説明している。呉善花氏の反日感情の分析は韓国人のDNA、民族の血、思考回路の原点にまでさらに掘り下げられている。私が長年韓国社会の中で感じていた思いが活字となって明確に説明されていた。「これだ!これ!」と共感し実に痛快だった。そして呉善花氏の分析力の凄さに驚嘆した。それは第4章の「なぜ反日感情はぬぐえないのか」に明確に描写されてある。「日本統治時代への恨みが反日の根拠となっているのではなく、蔑視すべき民族(日本)が自分たちを統治したことが許せずそれが反日民族主義を生み出している。」 このようにこの第4章は、ほかのどの学者も分析できない韓国人の深層心理を解明している。
142ページにこういう文章がある。「生来の野蛮で侵略的な資質を持つ日本民族が我が民族の聖なる血の一体性を凌辱した。」 反日は生理的反応に近い怒りから生まれた感情である。私はその感情を動機として多くのドラマ、映画ミュージカルが作られ、国民はそれを真実だと信じてしまうと見ている。この負のスパイラルが韓国人の反日感情を増幅させたのだ。「その歴史観は虚偽捏造であり真実はこうだ」と訴えるまともな学者が現れても、この根深い価値観が骨の髄までしみ込み、すぐには変わらないのである。
しかしこういう韓国でも慰安婦像撤去と韓国の歴史教科書から慰安婦の記述を削除するために活動してきた金柄憲氏を代表とした慰安婦法廃止国民行動の活動も6年目に入った。初期に比べれば大分状況が好転し、正義連側の活動が小規模になっているということは大きな変化だと言える。尹大統領がこの書評の執筆時点で、4月4日、憲法裁判所の決定により大統領を辞めさせられたが、大統領在任中、政権当初から反日政策をしなかったというのも近年における韓国の大きな変化だと言える。前述したように歴代のすべての大統領が反日政策をしてきたのにも関わらず、尹大統領は国益のためにそれをしてこなかったのだ。
話は前後するが歴代大統領の手を変え品を変えての反日政策の内容はここまで酷かったのかと改めて驚愕した。呉善花氏は中国人以上に韓国の反日感情が強いとも指摘している。
本書は2013年当時の韓国の情勢の深刻さを憂い執筆されたと推測される。その憂いの詳細が多方面にわたって第6章に書かれている。だが、ここで示されている凶悪犯罪、社会問題に関して、それが山積みなのは、現在では日本のほうではないかと感じられるほどだ。
実際前述したように反日の根は深く深刻だが、その反面、韓国の書店に行けば韓国語に翻訳された多くの日本の小説や漫画があり、テレビでも1日中日本のアニメが流れ日本食のレストランはあちこちにある。最近はSNSを通じて簡単に日本の文化、歌謡、ドラマに接することができ日本の俳優やタレントも韓国で人気を博している。若者たちの中には親日家のユーチューバーも多く出現し購読者もかなり多い。日韓併合時代の真実も学校では教えられなくてもSNSで知ることができる。
また特に現在はJ-POPの人気はKーPOPを凌駕したという説もあるほどだ。以前は親日=悪という概念だったが、今やネット空間を通して自然な形で変わっていくのではないのかと思えるくらいだ。呉善花氏も反日教育を受けてきたので、他の韓国人同様反日だったが、日本に来てから韓国の歴史認識に疑問を抱き、近世から近代にかけての日韓歴史の本を手当たり次第に読み反日の魔法から解かれたのだ。
韓国の現実社会においては「客観的な世界情勢の中で日本統治を眺めてみようとすることもないし、書物もない」と呉善花氏はこの本の中で指摘しているが、もしこの『なぜ反日韓国に未来はないのか』という本が韓国で翻訳され出版されたら一体どうなるだろうか? ここまで見事に分析された本はないと思うし、個人的にはいつか近いうちに韓国で出版されたらと願っている。そうなれば韓国に未来はあるだろう。そして他方で、日本に対しては日本で自虐史観からの脱却が性急になされることを願うばかりだ。この本の中で共感し的を射た表現と思った箇所は数多くあるが、最後にこのフレーズを紹介しておきたい。
道徳的に上の者が道徳的に劣った下の者を常に訓示教育、感化していかなくてはならないという儒教の考え方が侮日観を形づくっていて、これが韓国の対日民族優越意識の根本にある。さらに韓国には自らこそが中華の正統なる継承者であるという小中華主義の誇りから民族優越主義がある。そのため対日民族優越意識が一層のこと強固なものとなっているといってよい。
このような意識は50代以上の世代には強く当たると思われる。が、今の若者たちはこの意識がやや薄まっているようにも思われる。が、しかし、いずれにしても韓国の偏向した歴史教科書は正しい日韓関係構築のため、至急改訂されなければならない。