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 「ホロコースト」を利用した荒唐無稽な反日宣伝の正体を暴露 -戦後80年「歴史戦」の焦点となる著作の刊行を予定-

【英語版】https://i-rich.org/?p=2296

国際歴史論戦研究所 上席研究員
藤岡信勝

 一昨年(2023年)の11月頃、amazonにアメリカで出版される予定の奇妙な本の予告が出た。Bryan Mark Riggの『Japan's Holocaust: History of Imperial Japan's Mass Murder and Rape during World War II』(Knox Press)である。

 周知の通り、「ホロコースト」とは第二次世界大戦中にナチス・ドイツがユダヤ人に対して行った計画的な大量殺人を指す言葉で、日本とは何の関係もない。日本と「ホロコースト」のつながりを強いて上げるとすれば、ヒロシマ・ナガサキの原爆投下や東京大空襲など、多数の日本人を焼き殺した連合軍による戦争犯罪を、ホロコーストのようなものだと語られたことはある。日本人は「ホロコースト」の犠牲者なのである。

 しかし、この本のタイトルからは、そのサブタイトルでも明らかなように、日本が行為主体となって「ホロコースト」を実行したと読めるものである。日本が「ホロコースト」の名に相当するような、どこかの民族を抹殺しようとする計画を考えたことなど一度もない。書名だけで荒唐無稽なインチキ本であることは明瞭だ。同書は、昨年3月に紙媒体の本が出版され手軽に読めるようになった。その内容は今までに捏造された反日宣伝のデマを集大成したもので、日本ではすでに完全に論破されてしまった南京事件の残虐写真を並べているだけでも、この本のねらいは明らかである。
 ではこの本の出版はアメリカでどのような効果をもたらすだろうか。この本はあえて学術書の体裁を取っており、巻末にまとめられた注記は1564件もある。一番懸念されるのは、日本の歴史や日本の戦争を研究しようとするアメリカ人の青年が、学術書の体裁をとっているが故にこの本を研究のスタート地点で読んで、日本についてあらぬ先入観を植え付けられてしまうという可能性が存在することである。

 このような反日プロパガンダ本に対して、私たち日本人はどのような態度を取り、どう扱うべきであろうか。この点について筆者(藤岡)は、歴史、軍事、外交、ジャーナリズムなどの専門家や関係者に質問した。もちろん、筆者の知り合いの範囲に限られているのは当然である。

 回答は真っ二つに分かれた。一方で、それは大変だ、徹底的に反撃しておかなければ、いつの間にか事実として定着してしまいかねないという反応があった。他方で、このような明らかなプロパガンダ本は相手にすべきではない、著者は日本人が反応してくれるのをじっと期待して待っているのであり、この種の本に反応することはかえってその宣伝に手を貸すことになりかねない、というものであった。おおまかな傾向を言うならば、専門性の高い人ほど慎重論に傾き、また外国人研究者のほうが日本人よりも強い危機感を感じておられた。私は迷い、逡巡した。その分だけ、このプロジェクトのスタートが遅れたことは否めない。

 ところで、筆者は1997年に刊行された Iris Changの『The Rape of Nanking: The Forgotten Holocaust of World War II』(BasicBooks)について、南京事件研究の第一人者であった東中野修道氏の協力を得て、刊行後直ちに検討会を立ち上げたことがある。手始めに、「プロパガンダ写真研究会」を組織して同書に掲載されている写真の検証から反撃を始めた。一般に、写真は「真」を「写」すものと考えられているが、実は写真ほど信用出来ないものはないのである。当時はまだ自動翻訳など発達していなかったから、チームをつくって仮訳を作業用に用意した。同書がの翻訳が刊行されたのは、10年後の2007年になってからのことである。これがスタートとなって2000年に日本「南京」学界(東中野修道会長)ができ、決定的といえる成果をあげたことを特筆しておきたい。

 今回の件について言えば、この本の翻訳は出そうにもないし、出す必要は全くない。その限りで、日本社会においては本書は直接の影響は殆どないと言ってよいのかも知れない。しかし、現代はグローバルに情報が流通し、最新のテクノロジーを駆使すれば、かなりのスピードで人々の意識を変える情報操作が可能な時代でもある。いつ、この本が持ち出されるか予想はつかないが、可能性はあると考えておいたほうがよいのではないか。このように考えて、この問題に取り組むことを決断したのである。

 そこで、南京事件について、東中野氏と並んで第一人者の位置を占める阿羅健一氏と、戦前・戦中の中国・アジア・米国と関わる歴史研究と翻訳に多くの実績をもつ田中秀雄氏に相談し、他方、国際歴史論戦研究所の杉原誠四郎会長と山本優美子所長の同意と理事会の承認を得て、「戦争プロパガンダ研究会」を同研究所傘下の一つのプロジェクト組織として位置づけて、研究会をスタートさせることにした。研究会の会長は阿羅氏、副会長は田中氏、事務局長は筆者が務めることとなった。


 同研究会は、2025年2月15日現在、24人の方々に「研究員」に就任していただいた。その中の5名の方は、アメリカ国籍とカナダ国籍の外国人である。研究会は昨年の8月から月例ペースで公開研究会をスタートさせ、この3月の第8回公開研究会で終了する予定である。公開研究会でご講演をしていただいた方々のお名前と演題は次の通りである。( )内は開催日。

                             ◇
田中秀雄 「日本のホロコースト=3000万人」説の虚妄      (2024年8月18日)
溝口郁夫 南京事件「プロパガンダ写真」の検証
阿羅健一  『Japan's Holocaust』は研究書でなく宣伝文書である
池田 悠 虚報「南京事件」は何故消えないか?-真の作者、米宣教師団の悪行を暴く
                                                             (以上9月15日)
大高未貴 『ジャパンズ・ホロコースト』解体新書
丸谷元人 太平洋戦線における「残虐日本軍」のプロパガンダ    (以上10月20日)
茂木弘道 あからさまな「反日レイシズム本」
宇山卓栄 『Japan's Holocaust』で試される日本の歴史戦     (以上11月17日)
笠谷和比古 No more Hiroshima!/No more Pearl Harbor!
ジェイソン・モーガン 『Japan's Holocaust』から学ぶ「フェイクヒストリー」の作り方
                                                      (以上12月15日)
マックス・フォン・シューラー アメリカの戦争犯罪-米軍慰安婦・空襲
ミロスラフ・マリノフ 「ホロコースト」とは何か      (以上2025年1月26日)
長谷亮介 『Japan's Holocaust』を歴史学の基準で書評する
矢野義昭 原爆投下正当化論の誤謬を糾す-3千万人虐殺論もその延長  (以上2月16日)
藤岡信勝 比較してわかる『Japan's Holocaust』のトンデモ度
髙橋史朗 「戦争プロパガンダ」による日本支配の現在    (以上3月16日予定)
                             ◇

 この他、ハーバード大学のラムザイヤー氏、日本在住の安全保障問題の研究者エルドリッジ氏、及び日本人執筆者数名を予定している。なお、書籍になるときの論文タイトルは、上記のものとは異なることをお伝えしておきたい。6月末までに刊行する予定で、目下原稿のとりまとめと編集作業に着手している。その後のアメリカでの英語版の発行費用捻出も含めて、一口5000円の、寄付金を含む予約販売も企画している。

 改めて述べておくが、本書は『Japan's Holocaust』の「反論書」ではない。いうなれば、「暴露本」である。それを通して、現在のアメリカの歴史学界の現状に対する批評にもなっていると考える。今年は「戦後80年」の年に当たっている。この年の歴史戦の焦点として、この成果が国民の間に広く共有されることを期待している。