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国連 女子差別撤廃委員会の日本の皇室典範に関する勧告に反対し削除を求める声明

2024年10月17日、ジュネーブ国連欧州本部にて女子差別撤廃委員会(以下、委員会)の対日本審査会が行われた。会期後に委員会が発表した総括所見では、皇室典範で定める皇位継承の男系男子は女子差別撤廃条約に反するとして「男女平等を保障するために皇室典範を改正するよう」勧告した。

日本の伝統文化と国柄を無視した信じがたい傲慢で侮辱的な勧告であることは言うまでもない。日本政府は抗議しているが、委員会がこの勧告を削除しない場合は、国連分担金の支払いを停止し、条約を廃棄すべきだと当研究所は考える。国連の勧告に従わないのは「世界の流れに逆行してる」、「国際社会に後れをとる」という声があるが、審査プロセスの実態を知らない浅はかな意見である。

まずは、委員会において皇室典範問題がどのように扱われてきたか、審査の過程、問題点を述べる。

条約締結前 に予想されていた懸念

1985(昭和60)年、日本政府が女子差別撤廃条約を締結する直前の5月29日第102回衆議院外務委員会で、当時の安倍晋太郎外相は条約と皇室典範との関係について次のように述べた。

「皇位継承資格が男系の男子の皇族に限られていることは、本条約第一条に定義されているところの女子に対する差別には該当しない。」

日本政府は条約締結前から、皇室典範との関係について疑問の出る可能性があることを認識していたのだ。

対日審査会における皇室典範問題

 2001年に愛子内親王が誕生された2年後の2003年、対日審査会でフィリピンのマナロ委員から初めて皇室についての質問があった。

「皇室と日本政府は、プリンセス愛子が女性天皇になるように法を改正することを検討したことがありますか?」

日本政府はこう答えている。

「皇室典範では皇位継承は男子のみです。一方、天照大御神は皇室の祖先であり、日本の歴史には7人の女系天皇がいました。しかしながら、プリンセス愛子が女性天皇になる可能性はありません。」

この時の総括所見で、皇室典範は取り上げられなかった。

2016年の女子差別撤廃員会の対日審査会では、皇室典範の話は一切出なかった。にもかかわらず、会期後に発表されようとした総括所見に「皇室典範の男系男子は女性差別」という勧告が盛り込まれそうになった。議論されなかった問題を総括所見で扱うのは手続き上の問題がある。日本政府からの抗議もあり、公開前に削除された。

次に不意打ちが起こった。2020年3月9日付で委員会が発表した「日本政府への事前質問リスト(CEDAW/C/JPN/QPR/9)」に突然、皇室典範問題に関する質問事項が記された。

「女性の皇位継承が可能になることを想定した措置についての詳細を説明せよ。」

なぜこの質問が出たのか。委員会は事前質問リストを作成する前にNGOからの意見や情報を受け付ける。その中に日本のNGO「公益社団法人 自由人権協会 」が提出した意見書があった。「皇室典範が天皇となりうる者を男系男子にしか認めないのは、女子差別撤廃条約の差別の定義に該当する」というものだった。

この意見書は受付締切後に提出されたもので、通常であれば委員に無視されるべきものである。ところが、皇室典範問題を扱いたかった委員にとっては好都合の内容だったため取り上げたのだ。

事前質問リストに対して、日本政府は報告書で回答せねばならない。2021年9月、第9回政府報告書(CEDAW/C/JPN/9)で次のように回答した。

「我が国の皇室制度も諸外国の王室制度も、それぞれの国の歴史や伝統を背景に、国民の支持を得て今日に至っているものであり、皇室典範に定める我が国の皇位継承の在り方は、国家の基本に関わる事項である。女性に対する差別の撤廃を目的とする本条約の趣旨に照らし、委員会が我が国の皇室典範について取り上げることは適当ではない。」

女子差別撤廃委員会89セッション 対日審査会にて

この流れで、2024年10月にジュネーブで行われる対日審査会においても皇室典範が扱われることは事前に分かっていた。頼もしいことに「皇統(男系男子)を守る国民連合の会」(葛城奈海会長)が対委員会活動に取り組むこととなった。事前意見書提出、現地での会合に参加し、公開会合でのNGO発言、追加意見書提出、パンフレットを委員たちに直接手渡して説明もした。皇室典範が女性差別とは全く関係ないという様々な資料や情報は委員に伝わっていたはずだ。

10月17日に対日審査会が行われた。委員と日本政府代表団が参加し、政府報告書について委員から質問、政府代表団から回答、委員から追加質問の形で進行される。

皇室典範については、キューバのMs. Yamila González Ferrer委員が質問した。

「男女の平等を確保するための皇室典範の改正などについて検討されることをお願いいたします。」

日本政府代表団からは内閣官房が回答した。

「皇室典範に定める我が国の皇位継承のあり方は国家の基本に関わる事項でございます。女性に対する差別の撤廃を目的とする本条約の趣旨に照らし、委員会が我が国の皇室典範について取り上げることは適当ではない、ということを申し上げて答えといたします。」

常に弱腰の日本政府にしては、毅然とした立派な回答であった。我々は思わず支持を表明する拍手をした。

ところがその直後、本来なら意見を言う立場にない議長でスペインのMs. Ana Peláez Narváez が反論するかのように発言した。

「日本だけでなくすべてのそのような差別的な法律がある国に対しては同様の質問をしております。私自身の国、スペインもそのうちの一つです。従ってこのトピックは女子差別撤廃条約に関係のあるものとだと申し上げたいと思います。委員会として適切な質問だというふうに思っております。」

会場で大きな拍手が起こった。我々以外の日本人NGOは、男系男子に反対し皇室典範改正に賛同する日本人だったのだ。委員会はスペインも諸外国の王室も日本の皇室も混ぜ合わせて、委員会の使命であるかのように男女同じを押し付けた。国の伝統文化を考慮せず、皇室への尊敬の念もないことが明白となった。

委員会は、会期後に発表した総括所見(CEDAW/C/JPN/CO/9)で、皇室典範について日本政府に対し次のように勧告した。

「委員会は締約国に、皇位継承法を男女平等を確保するように改正した他締約国の良い取組に注目し、皇位継承に男女平等を保障するよう皇室典範の改正することを勧告する。」

女子差別撤廃委員会 審査の実態

諸国の一般の人は、国連の勧告というのは、立派な専門家や研究者が慎重に綿密に調べ上げて結論を出すのだろうと想像するかもしれないが、実態はまったく違っている。

エキスパートと称される23名の委員は、世界各国から選出された有識者だが、自国に明白なる人権問題を多く抱えている国の出身者も多い。会期中はかなりの過密スケジュールで、一つの問題について丁寧に調べることは不可能だ。勧告というのは短期間で数名の委員が作文するのが常態である。対国連活動に熱心な日本のNGOはいわゆる左派系団体だ。彼らは決して日本の世論を代表している論者ではないが、リベラル、フェミニスト思想の委員とは多くの問題について方向性が一致する。

 実は今回の委員会ではサウジアラビアも審査対象国であった。同国は1992年に制定した統治基本法の第五条で、王国の統治は「息子およびその子孫」が継承すると定めている。ところが、委員会はサウジアラビアに対してはこの第五条の改正を勧告していない。日本の皇室典範だけが女性差別だというのか。ダブルスタンダードの審査である。

日本に女子差別撤廃条約は不要

勧告に法的拘束力は無いとはいえ、日本国憲法では条約を誠実に遵守することが規定されている。1985年に日本が女子差別撤廃条約を締結してから40年が経とうとしているが、この間の委員会からの勧告で社会が良くなったのだろうか。当研究所は、今後全ての勧告を受け入れて履行したら、次世代に繋げるべき日本の姿はなくなると考える。

国連分担金を出して国を壊されるようなことをこれ以上続ける必要はない。日本のことは、日本人で決めれば良い。ローマ法王の例を見ても分かるとおり、それぞれの国には歴史と文化に基づく伝統がある。建国以来、男系を守ってきた皇統を考慮しないとは、それ自体、日本を軽視した振る舞いである。今回の皇室典範に関する非常識な勧告だけを取り上げても、この条約を廃棄する充分な理由である。

日本の皇室典範に関する委員会勧告に反対し削除を求める

 以上の主張の下に、当研究所は委員会による日本の皇室典範に関する勧告に反対し削除を求める。2024年11月18日、当研究所は委員会に宛て、直ちに勧告の削除を求める意見を送ったことを報告する。