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書評:李 栄薫(編著)『反日種族主義』、文芸春秋、2019年11月 (松木)

松木國俊

起ち上がった良心的学者

 ついに韓国の良心的歴史研究者が真実を訴えるために起ち上がった。ソウル大学名誉教授李栄薫氏が所長を務める落星台経済研究所所属の6人の学者が、2018年12月より「李承晩テレビ」で45回に亘る連続講座を敢行し、戦後の韓国の歴史歪曲を糾弾したのだ。彼らは「大韓民国危機の根源:反日種族主義」及び「従軍慰安婦問題の真実」という二大テーマについて、当時の統計や文書など一次資料をもとに、反論の付け入る隙のない完璧な論理構成で韓国の歴史学会の歪んだ反日歴史観を論破している。

そしてその講義ノートを改めて整理して発刊されたのが本書『反日種族主義』である。2019年7月の発売開始以来ベストセラーとなり、10月末現在で既に13万部以上が売れている。韓国でかつて人文科学分野の書籍がこれほどの販売部数を達成したことはなく、読書習慣の違いや人口比を勘案すれば恐らく日本なら100万部に相当する部数である。

 ここで李栄薫教授らが主張する「種族主義」とは、韓国という国家が未だに近代的市民社会を形成するに至っておらず、韓国の「民族主義」は弱肉強食の世界における種族間の敵対感情のレベルでしかないという事を意味している。韓国人の反日運動は健全な「民族主義」からかけ離れた、日本を仮想の敵対民族とする「反日種族主義」に他ならない。さらにその深い根っこは朝鮮文化に根付いているシャーマニズムやトーテミズムの世界であり、日本を絶対悪の国(悪魔の国)、韓国を絶対善の国(天使の国)とする極めて非科学的で閉鎖的考え方であることを見ぬいている。

本書に目を通すと、日本人なら敢て婉曲的に記述するであろうと思われる部分も、何ら遠慮なく事実がそのままストレートに書かれており、実に分りやすく説得力がある。例えば冒頭の李栄薫教授による「嘘の国」は下記の文章から始まっている。

「韓国の嘘の文化は国際的に広く知られた事実である。2014年に偽証罪で起訴された人々は1,400人、日本の172倍、人口を勘案すれば日本の430倍である。嘘の事実に基づいた告訴、誣告罪の件数は500倍、一人当たりにすれば1,250倍である。保険詐欺も蔓延しており、2014年の保険詐欺総額4兆5,000億ウォンでアメリカの100倍である」

この数字だけを見ても読者に日韓間のあらゆる論争の本質が見えてくるのではないか。

さらに李栄薫教授は、韓国最高裁が2018年10月に新日鉄住金(現在に日本製鉄)に対して、元徴用工と称する人々への補償金支払いを命じた判決について、会社側から給料を預かった朝鮮人舎監がきっちりと朝鮮人労働者に支払わなかったことが問題であり、あくまで原告と舎監間の民事事件に過ぎないと指摘している。

「この程度の事件をめぐって最高裁は日本製鉄の責任を追及した。裁判官は歴史家ではない。戦時期の実態について何も知らない法律家に過ぎない。(中略)彼らは原告の嘘の可能性の高い主張を疑わなかった。幼いころから嘘の教育を受けて来たからだ」という彼の正論にまともに反論できる者はいないだろう。

その他、従軍慰安婦問題や竹島問題についてもそれぞれの研究者が本書で韓国の歴史歪曲を完膚なきまでに論破している。 

彼らは「真の愛国者」

本書の寄稿者の一人である李宇衍経済学博士は特に徴用工問題について深く研究しており、釜山総領事館前の徴用工の像設置反対運動や「反日種族主義に反対する会」の会長を務めている。彼は筆者が所属している「国際歴史論戦研究所」の呼びかけに応じて、2019年7月ジュネーブの国連欧州本部に赴き、国連人権理事会本会議の場で筆者と共に徴用工問題の「嘘」を暴くスピーチを行った。さらに国連内で開催したサイドエベントでは、賃金などの具体的数字をあげて差別を否定し、慣れない朝鮮人労働者に危険な作業は一切させなかったなど、当時の実態を韓国人研究者の立場から説明した。

李宇衍氏はスピーチ直後から「死ね」などと韓国民から凄まじいバッシングを受け始めた。帰国後は地上波テレビMBCが李氏に「売国奴」の烙印を押し、彼の事務所には暴漢が現れて唾を吐きかけ罵声を浴びせて彼を脅迫した。さらに彼は「与敵罪」(敵国に与して大韓民国に抗う罪。有罪となれば死刑)でも訴えられたという。

李栄薫所長も「名誉棄損」で訴追され、残りのメンバーも猛烈な批判が浴びせられ訴訟の危険にさらされている。場合によっては命さえ失いかねないだろう。

しかし彼らは全くひるんでいない。韓国が現在のような「嘘の政治」、「嘘の外交」そして「嘘の文化」に転落したままでは必ず亡国を招くと確信しているからだ。彼らこそ真の愛国者である。

戦後日韓両国で進行した「嘘の歴史教育」によって、韓国人には日本への「恨み」を、そして日本人には韓国人への「自虐的贖罪意識」を植え付けたことが、今日の歪んだ日韓関係を形成したことは明白である。このままでは両国とも精神的退廃から亡国への道を歩む以外になくなるだろう。それを防ぐにはお互いが真の歴史を取戻し、自分たちの体に流れる祖先から受け継いだ血に自信をもたねばならない。

日本人の祖先は侵略者ではなく、勿論「強制連行」などやるはずがなかった。韓国人の祖先は娘や恋人が性奴隷にされるのを指をくわえて見送り、日本の官憲に強制連行されて唯々諾々と奴隷動労に甘んじるほど脆弱で無気力な人々では決してなかった。彼らも夢をもち親や子供のため、そして民族のために前向きに頑張っていたのだ。

日韓両民族が「嘘の歴史」から目覚め、今日の繁栄の基を築いてくれたそれぞれの祖先に感謝することができれば、両国の間に真の和解が訪れるに違いない。

その為に韓国の愛国者が起ち上がり、命がけで書いた本書『反日種族主義』が、日韓両国で一人でも多くの人に読まれることを、心より願って止まない次第である。

以上