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【論説】藤木俊一 国際連合-「大東亜戦争終結77年後のマクロ・ミクロでの共通の歪み」

【英訳版】https://i-rich.org/?p=1373

令和5年(2023年)1月

    上席研究員

藤木 俊一

・序章 本論考の目的

・第1章 マクロ領域での歪み

  • 国連憲章と日本国憲法ロシアの常任理事国の資格を停止できるか?

A.国連憲章改正の手続きについて

B. 日本国憲法改正の手続きについて

・第2章 ミクロ領域での歪み

1.国連機関であるユニセフの問題

  • 日本の行政機関である「児童相談所」の問題

・第3章 対策と結論

序章 本論考の目的

本論考では、国際連合や、様々な日本国内の機関・組織が、時代にそぐわないにも係わらず温存させたために機能不全に陥っていることを、ロシアによるウクライナ侵攻、国連という組織、日本国憲法と国連憲章、そして、一見、無関係であるかと思われる日本の地方行政が管轄する児童相談所との共通問題に関して論じ、その解決策を探ろうというものである。

第1章 マクロ領域での歪み

はじめに、本論考では、世界の問題に関する視点を「マクロ」、国内問題に関する視点を「ミクロ」と定義することにする。

2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が開始された。西側諸国は、米国の強い影響下にあるNATO(北大西洋条約機構)を中心に自由主義諸国に対して、ロシアへの経済制裁を強めるように要請し、日本もそれに同調した。 ロシアは、2021年まで、天然ガスの生産世界第1位で、原油の産出量世界第3位であり、日本はロシアによるウクライナ侵攻以前は、ロシアより、天然ガスの約8%、原油の4%を輸入してきている。ロシアは、原油の輸出だけで、政府の収入の17%程度を捻出している天然資源大国である。

筆者は、2014年より、国連の様々な人権関連の理事会や各種条約体委員会に参加し、諸問題に関する発言、各国政府の代表らとディベートを行ったりしてきている。多いときには、 年に5回の渡航をし、英国や米国、アジア諸国などの人権関連の様々な会合等にも招待され、発言を行ってきた。 その経験から、国連が如何に偽善的で機能不全な世界最大の「官僚組織」なのかを目の当たりにすることになった。少々、端的過ぎるかも知れないが、国連そのものが被害者を創出し、その被害者を守っているように装い、各国に分担金の増額を要請し、組織を太らせてきていることに徐々に気付くことになった。まさに「棺桶屋の辻斬り」そのものであると感じたのだ。

問題を解決するのではなく、問題を創り出し、ジェンダー、人種、民族、性的指向、障害などに基づく集団の代弁をする「アイデンティティー・ポリティクス」によって分断を煽り、利権を作っているということだ。そもそも、「官僚機構」とは、その性質上、利権の拡大再生産をする組織なのである。

ロシアによるウクライナ侵攻で、国連が全く役に立たない組織であることが世界中に知れることとなった。 国連の様々な組織の中で、唯一、193ヵ国の加盟国に対して法的拘束力があるのが『国連安全保障理事会』の決議だ。 この『国連安全保障理事会』は、アメリカ・イギリス・フランス・中国・ロシアの「常任理事国」と、11ヵ国の「非常任理事国」によって構成されている。日本は、1956年に国連加盟後、現在までに任期2年の非常任理事国を11回務め、2023年1月からも12回目の非常任理事国を務めている。

日本では「国連(国際連合)」と呼ばれているが、英語名では"United Nations"と表記されている。よって、「国際連合」というのは、占領軍の主導による明らかに意図的な「誤訳」であり、実際に常任理事国である中国では、「聯合国」と表記しているのだ。

日本で「国連」と呼ばれる組織は、実際には、第二次世界大戦の「戦勝国連合」ということになる。そして、敗戦国である日本は、国連憲章第五十三条および、第百七条の中に「枢軸国(敵国)」と記載されており、常任理事国は「理事会の決議無しに日本に対して戦闘行為を行って良い」とされているのである。

日本やドイツは、この「敵国条項」を削除させようと、努力をしてきたが、国連加盟国の3分の2(129ヵ国)以上の支持を得て採択、批准されて初めて削除が実現するため、そのハードルの高さ故、いまだに敵国条項は国連憲章に残ったままなのだ。

安全保障理事会の表決手続きは、国連憲章の第27条に基づいており、各理事国が1票の投票権を有することが規定されている。 5ヵ国の常任理事国が全て一致し、そして、非常任理事国の内の4ヵ国、合計で9ヵ国の賛成が必要と規定されているのだ。逆説的に言えば、常任理事国の内、1ヵ国でも反対すれば、安全保障理事会での決議は採択されないということである。そして、その「拒否権」を一番行使してきたのが旧ソ連を含むロシアなのだ。現在までになんと、拒否権が行使された決議の半数で、ロシアがその権利を行使してきているのである。

 1.国連憲章と日本国憲法-ロシアの常任理事国の資格を停止できるか?

それでは、ここで、ロシアの常任理事国の資格を停止できるのか?に関して考えていこうと思う。

国連憲章第5条には、加盟国の資格停止に関する規定がある。 「安全保障理事会の防止行動又は強制行動の対象となった国際連合加盟国に対しては、総会が、安全保障理事会の勧告に基づいて、加盟国としての権利及び特権の行使を停止することができる。これらの権利及び特権の行使は、安全保障理事会が回復することができる。」 となっている。

加盟国の資格停止や国連からの除名は、安全保障理事会の「勧告」に基づき、「国連総会」によって実施されなければならないのだ。しかし、この勧告の発出には、安全保障理事会の常任理事国による同意投票が必要なのである。

さらに、国連憲章第6条には、「この憲章に掲げる原則に執ように違反した国際連合加盟国は、総会が、安全保障理事会の勧告に基づいて、この機構から除名することができる。」という項目があるが、実際には、これによって除名処分を受けた国は存在しない。

朝鮮民主主義人民共和国(DPRK北朝鮮)も、日本国は国家として認めていないが、国連では国家として承認されている加盟国であり、様々な条約や国際法違反を犯していても、除名処分も受けていないのを見れば理解できるであろう。

このように、国連憲章自体が大きな「欠陥」をかかえているために、すでに「機能不全」を起こしてしまっているのである。 「敵国条項」から日本を外すのも、常任理事国であるロシアの拒否権を行使できないようにするのも、国連憲章の「改正の手続き」が必要になるのだ。 この改正の手続きは、国連憲章の第18章第108条、109条にある「改正」の手続きに沿って決議されなければならないのだ。それぞれ、次の様に規定されている。

A.国連憲章改正の手続きについて

 第108条

「改正」には、総会の構成国の3分の2の多数で採択され、その上に、安全保障理事会の全ての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって、各自の憲法上の手続に従って 批准された時に、すべての国際連合加盟国に対して効力を生ずる。

 第109条

1.この憲章を再審議するための国際連合加盟国の全体会議は、総会の構成国の3分の2の多数及び安全保障理事会の9理事会の投票によって決定される日及び場所で開催することができる。各国際連合加盟国は、この会議において1票の投票権を有する。

2.全体会議の3分の2の多数によって勧告されるこの憲章の変更は、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって各自の憲法上の手続に従って批准された時に効力を生ずる。

3.この憲章の効力発生後の総会の第10回年次会期までに全体会議が開催されなかった場合には、これを招集する提案を総会の第10回年次会期の議事日程に加えなければならず、全体会議は、総会の構成国の過半数及び安全保障理事会の7理事国の投票によって決定されたときに開催しなければならない。

これを見ても、現在の中国、北朝鮮、インド、その他のロシアのウクライナ侵攻に対する国連総会での非難決議での態度を見ても、この国連憲章自体が機能しないものであることは誰の目にも明らかなのだ。

また、人権関連に関しても、国連人権理事会において、中国国内の少数民族であるウイグル族や香港、その他のマイノリティへの中国政府による弾圧に関する非難決議を行っても、チャイナマネーの影響で、中国を非難する国の数よりも、中国を擁護する国の数が、数では遙かに上回っているのは、ここ数年の様々な決議を見ても明確である。

. 日本国憲法改正の手続きについて

さて、比較検討するために日本国憲法の改正の手続きに関して見てみよう。

日本国憲法第96条では、憲法改正の手続きについて、「国会で衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成を経た後、国民投票によって過半数の賛成を必要とする」と定められている。

この条文が憲法改正を事実上不可能にしているのは、戦後77年経った現在まで、一度も憲法改正がなされていないのを見れば明らかである。日本国憲法の改正に必要な手続きと、国連憲章の改正に必要な手続きが、酷似しており、改正を事実上適用不可能としているのである。

1945年10月24日の United Nations 創設から77年以上が経ち、現在の世界のパワーバランスや、それを取り巻く環境が、大東亜戦争(第二次世界大戦)終結時とは全く異なる中、いまだにあの手この手で組織や機関の延命を図っているに過ぎないのだ。

我々は、「世界平和」のために国連があると繰り返し教え込まれてきたが、実際には世界平和を破壊し、特定国の利益誘導の道具として使われ、そして、機能不全に陥ったといえる。現在では、チャイナマネーによる国連内部の汚職も、隠す事すらしなくなっているのだ。

. 国連の諸問題に関する多くの識者の意見

国連憲章に基づく国連の「改正の手続き」のもとでは、不可避に必要な改革が常任理事国1カ国の拒否権行使によって実現できないとすれば、実現するための方法として「脱退」という選択肢も考えられるとする識者も多い。筆者も、日本が1933年3月24日に理事国という国際的地位を放棄し国際連盟を脱退したように、当初は白人社会の利権保持のための偽善的団体から脱退しか方法はないと考えていた。

現在の国連の総会で、あるべき新たな国際連合憲章を審議し、もしそれに常任理事国1カ国の拒否権で成立しない場合は、その新しい国際連合憲章に賛成した諸国はいっせいに現在の国連から脱退し、新しい国連憲章のもとに再結集することにすればよいとする論調もある。

しかしながら、国連の現場を見てきている筆者の目から、国連から自由主義陣営の国家がいっぺんに脱退するというコンセンサスを取るのは、ほぼ不可能であると考える。  

なぜならば、自由主義陣営の国家においても、国連によって大きな利益を得ている国家も数多く存在しており、逆にこの「脱退」という方法は、国連での中国の他国への影響を更に強固にする可能性が高いために、筆者は現時点で同意できない。

まずは、自由主義陣営がこの「制度疲労」「組織疲労」が存在することを共通認識として持つことが重要であり、岸田首相が提唱する国連改革を実行しつつ、G7または、その他で、新たな枠組みの組織を作り、国連への影響力を強める方法が、現時点では最適なのではないだろうか。

第2章 ミクロ領域での歪み

1.国連機関であるユニセフの問題

国連憲章の改正が出来ないのと同様に、日本国においても「占領国憲法」と言われる日本国憲法の改正すら一度も行われていない。 筆者は、この国連の機能不全と、国内の機能不全に共通する理由があると考え、その理由の内、現在、筆者が係わっている問題で、共通するミクロの部分の更に1点である「児童相談所」に焦点を当てようと考える。

ここでは、創設の目的や時期がほぼ同じ日本の「児童相談所」の問題を論じるために、その比較対象として、国連の一機関であるユニセフ(国際連合国際児童緊急基金)Unicef = United Nations International Children's Emergency Fundの問題に関して先に論じておかなければならない。

「第二次世界大戦後の1946年12月の国連総会において、戦争で親を亡くした子供たちに、水、食料、医療、衣料、教育などを与える目的で、ユニセフの設立が採択された。

1949年には、深刻な栄養不良に陥っていたり、衣料など生活に必要なものが十分になかったりした日本の子どもたちへ、給食用の脱脂粉乳、衣服をつくるための原綿、医療品などの提供が開始され、東京オリンピックが開催された1964年まで、15年間支援が続けられた。

戦後15年~20年経てば、終戦時の子供たちも大人になり、自立できる年齢になるために、この「国連国際児童緊急基金」の役割は終えたといえる。しかし、ユニセフは組織の存続のために、最近でこそ、テレビなどで、アフガニスタンやウクライナで被害を受けている子どもへの支援を呼びかけるコマーシャルも見られるが、その目的が、「戦争で影響を受けた子供たちへの支援」から、「後進国で貧困にあえぐ子供たちへの支援」と、変わって行ったのだ。

1953年の国連総会で、このユニセフを「恒久機関」とする決議がなされた。そして、ユニセフという名前はそのままに「国際連合児童基金」と改名された。 後進国や発展途上国の子どもに対する支援そのものは、素晴らしいことであると考えるが、その実情は、一度作られた組織および、そこに働く職員や関係者たちの利権の温存、そして拡大となっていったのだ。  

さらに国連が国家間の紛争を解決出来ない(しない)ために、このユニセフの存在価値を上げているとも言えるのだ。要するにどちらにころんでも、焼け太りする組織ができあがっているのである。

そして、日本においても、そのユニセフの莫大な寄付金のおこぼれをもらうために「公益財団法人 日本ユニセフ協会」なる団体なども存在し、集めた募金の最大25%を運営資金にあてているのだ。この団体に至っては、「ユニセフ相続セミナー」など、遺産相続から資金を得るセミナーまで行っている集金に特化した団体で、ユニセフへの一般からの上納金が他国より多いために、集金機関として、国連のマークの仕様を許可されているという団体だ。

駅前にアフリカの黒人の母親と思われる人物が子どもを抱いている写真などを掲げて「あなたのコーヒー1杯分の代金で5人の子どもにワクチンを打つことができます」「幼い子どもたちの命を救うことができます」などの看板を目にされた方も多いと思う。そして、そこで募金を集め、「定期的な支援を」との呼びかけをし、企業などにはダイレクトメールを送り、口座引き落しや、カード払いによる支援を要請する手紙が届くのだ。

特に歴史的に白人社会がアフリカの黒人を奴隷として売買していたという負い目、「贖罪意識」からか、アフリカへの支援を中心にした活動に変わって行った。

現在の日本人が、それら駅前やネット上に掲示される写真を見れば、「悲惨だ」と考えるのが当然だ。「自分たちがぬくぬくと暮らしている同じ地球上に、こんなにも大変な思いをしている子供たちがいるのであればと、多少の寄付金を捻出するのは当然だ」と考えるだろう。これは、現地の状況や組織の生い立ちを知らない日本人に、「部分的な現象」だけを見せ、その状況があまりにも日本と「違う」ことを暗に強調する手法なのだ。それを見た道徳心の高い日本人なら誰しも「人のためになるのならば」と『善意』で寄付を行うことになるのだ。また、その寄付を集めている人たちもボランティアで見知らぬ人や利権のために『善意』で働いているのである。

しかし、この『善意』が、偽善者たちによって、自らの利益のために利用されているとは考えもしないであろう。また、国連の「冠」という権威が付いていれば、誰も疑うことさえしないであろう。 この寄付に関して、誰も文句を言えるわけはないのである。誰もがその子どもの姿を見て「可哀想だ」と思うからなのだ。

アフリカの女性の合計特殊出生率(*1)は、1980年で7~9人であった。ルワンダでは、平均8. 5人、それ以前は、さらに多かったと考えられる。2021年では、5~7人(ニジェールでは、平均6.8人)と、40年間で減少はしているものの、それでも、人口大爆発の原因になっている。ちなみに2021年時点での合計特殊出生率は、米国では1.7人(世界150位),日本では1.4人(世界191位)、韓国では0.9人(世界209位)である。

中国を人口で追い越すと予想されているインドの出生率は2.2(世界101位)で、中国は1.7(世界154位)である。

(*1)合計特殊出生率とは、15~49歳までを出産可能年齢ととらえ、女性の年齢別出生率を合計して求められた数値。

国連は、この人口大爆発によって、今度は、「食糧危機が来る」と煽り、このために「国際連合世界食糧計画 (WFP)」を創設し、「今、あなたの支援が必要です」とのキャンペーンを行い、それをネタにまた、各国政府から集金をする国連傘下の組織を新たに作ったのだ。

上のアフリカの女性の生涯出産数を見ても、いかにアフリカの人口増が突出しているかが容易にわかると思う。

アフリカでの合計特殊出生率、出産率が高い要因の一つに「乳幼児死亡率」の高さが挙げられる。弱い生き物は、その子孫を確実に残すために多くの子どもを残すのは、小さな魚の方が大きな魚よりも一度に多くの卵を産むことを見ても分かる自然界の摂理といえる。

アフリカに於いて、平均出産数が突出して多いのは、伝染病や熱病、風土病で乳幼児期に亡くなる数が多いためと考えられる。このような理由から、アフリカでは、自然死という概念は薄く、常に身内の死と隣り合わせのため、特有の宗教観があり、呪いや霊に非常に敏感なのだ。それは、アフリカの長い歴史の中で育まれてきた宗教観で、西洋の価値観や宗教観とは異なるものなのだ。

しかし、日本や西洋諸国は、支援していく相手を知る努力を一切せずに、善意だと信じて知らず知らずのうちに、自分たちの価値観を押しつけているとも言えるのである。 自然界の様々な生活や現象の一部に対してのみ西洋の価値観を取り入れると、そのバランスが崩れるのは当然の理である。 ワクチン接種や食料、医薬品の供給によって、乳幼児死亡率が下がるのは良いが、 12歳や13歳になると、レイプの被害に遭い出産をする子どもも少なくないのが現状だ。 そして、また、そこにワクチンを投与して、という「負のサイクル」に入るのである。さらに、アフリカでは、労働力の観点からも「多くの子どもを産む女性は価値が高い」と考えられており、広範囲に一夫多妻制があるため、人口爆発を加速させてきたのだ。 

キリスト教とイスラム教の対立で性暴力の犠牲になる女性や、国連の平和維持活動(PKO)の隊員が、派遣先の中央アフリカで女性をレイプしたり、パン1個と引き換えに性行為を要求したりということが、数多く報告されており、全体のバランスを考慮することなく欧米や日本の価値観をそのまま押しつけている国連そのものがコントロール不能に陥っているとも言えるのだ。

しかし、ユニセフは、焼け太りを続け、現在では職員だけで1万人を超える巨大利権組織となっているのだ。それに、世界中に数十万人とも言われる洗脳されたボランティアの方々が、「良いことをしている」と思いこまされ、『善意』で集金活動を行っているのだ。

2.日本の行政機関である「児童相談所」の問題

筆者が2019年頃より関与している日本国内での問題の一つに「児童相談所問題」というのがある。児童相談所も、ユニセフと設立の目的は同じで、1947年の児童福祉法改正で設置が決まり、「戦災孤児」に対する支援を行うとされたのだ。 したがって、児童相談所の役割もユニセフ同様に、戦後15~20年も経てば孤児たちは成人し、自立するために、その施設自体の存在価値がなくなるのは当然のことである。

しかし、ユニセフ同様に、すでに役割を終えた児童相談所の存続と職員の雇用の継続のために、その目的を徐々に変化させ、現在では、「間違っていても良いので、児童虐待が疑われたら#189 (いちはやく)に電話を」と、厚生労働省が大キャンペーンを打ち、児童相談所に収容の必要がない子供たちまで親から引き離され多く収容される事態となっているのだ。また、この通報制度が、「気に入らない近隣住民への嫌がらせ」にも利用されているのだ。そして、児童相談所内で様々な人権侵害が行われていることが明らかになってきている。これも、児童相談所の稼働率を上げることで、その翌年度予算が上積みされ、組織が大きくなり、役人のポストが増えるという、「官僚組織肥大化」のために変遷を続けてきたと言えるのだ。この巨大なキャンペーンを行っても、児童虐待による死亡数は、キャンペーン以前と比べても全く減少していない。それは、収容の必要のない子供たちを親から引き離している何よりもの証拠と言え、人権侵害が行われていることが疑われる。

児童相談所の問題は、非常に複雑であり大きな問題で、この論考にその詳細を書くことは不可能であるが、「行政が行っていることであるから間違いない」と、裁判所も当事者の話もまともに聞かずに目くら判を押し続けているのが最大の問題で、そのプラス点よりもマイナス点が多くなった「組織疲労」「制度疲労」に目をつぶることこそ、日本社会の衰退を意味すると考える。

筆者は、国際歴史論戦研究所のメンバー及び、協力関係にある団体らとともに2022年の10月には、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で行われた国連人権委員会・自由権規約委員会に参加した。これまで当研究所で扱ってきている諸問題とともに、「児童相談所問題」に関しても、この問題を専門に扱っている日本国内の組織とともに国連に意見書を提出し、国連から日本政府への勧告を引き出すことができた。 この「児童相談所問題」とは、行政や裁判所による立場の弱い夫婦や親への「集団イジメ」ともいえる問題なのだ。この「組織疲労」をきたしている国連でしか、同様に「組織疲労」をきたしている児童相談所の問題を話し合い日本政府に圧力をかけることができないという皮肉さをも感じながらの会合参加であった。

第3章 対策と結論

 この論考により、戦後77年経った現在、終戦直後に創られた様々な組織や制度が「組織疲労」「制度疲労」を起こしていることをご理解いただけたと考える。

また、1.国連憲章の改定が出来ない理由と、日本国憲法の改正が出来ない理由が同じ理由(創られたときに戦勝国が予期していないなかった状況変化が生まれたことで機能不全に陥っていること)であること、2.国連機関であるユネスコ問題と日本の児童相談所問題のルーツや、現在抱えている問題(官僚組織の利権の拡大再生産)が、その組織の規模にかかわらず同じであることもご理解いただけたと思う。

地球規模化時代(Globalization)の流れの中で、それにそぐわない国際化時代(Internationalization)の遺物である組織や機関を温存させることこそ、人間社会の後退を意味すると考える。これらは、77年かけて「組織腐敗」「組織疲労」や「制度疲労」が積み重なり、新たな問題が噴出することに繋がっていることを意味する。

これを現代に則した組織にするためには、子どもの時から「まずは相手を知る」ことから始まるグローバル人材教育を世界各国で出来るだけ若い時期から行い、その英知や勇気をもって、これら「組織腐敗」や「制度疲労」を起こしている有害な組織や制度、機関から、人類に本当に有用な組織へと転換させる、または、全く別な組織を作る必要があると考える。

なぜならば、生まれた瞬間からの悪人はいないと考えるからである。幼少期の教育によって、ある子どもは、実際に会って話したこともない他国の相手に対し、宗教上の理由や歴史問題の一面的な解釈をその教育の中で押しつけられてきたために、無意識に憎悪を向けるのだ。そうなる前に教育で「自分と違う意見や価値観が存在する」ということを双方に理解させ、それが自然であることを認識させた上で、「全体最適」を探るという知恵を付けさせる必要があると考える。勇気を持って正しい方向へ導くグローバルリーダーたちを育成する必要があるのである。

上述したように、自由主義陣営と全体主義陣営が、ともにこの「制度疲労」「組織疲労」が存在することを共通認識として持つことが重要であり、岸田首相が提唱する国連改革が確実に実行されるように日本政府は各国への働きかけを強めつつ、G7または、その他で、今後移行できる現代に則した新たな枠組みの組織を作り、国連への影響力を強めるまたは、国連を弱体化させ、新たな枠組みを強化して移行する必要があると考える。

日本政府は2016年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の分担金の38億5千万円(加盟国中第2位の金額=9.6%)の支払いを約8ヶ月保留した。翌年にも同様に分担金の支払いを保留した。1度目の保留は、ユネスコの「世界の記憶」(記憶遺産)に、中国によって捏造された「南京事件」が一方的に登録されることになったためであった。翌年の2度目の保留は、日本主導でのユネスコ改革のためで、その効果もあり、『記憶遺産の目的を「歴史の保存」とし、歴史論争の解釈や決着のためではないと明記。申請案件は速やかに公開し、異議を受け付けるほか、関係国からの意見は登録小委員会で検討し、登録可否の判断材料とする。』『関係者の間で意見対立が生じた場合は双方に対話での解決を促す。当事者による共同申請や、反対意見も付記した形での登録もあり得る』『当事者間で妥結に至らなければ、最長4年を想定した協議を経て諮問委員会がユネスコ事務局長への最終勧告を行う』などの改革が盛り込まれる結果となった。 

ユネスコ改革が日本主導で行われたのだ。この改革の成果により、韓国・中国、その他によって捏造された慰安婦問題の登録が保留になり、いまだ時期は未定であるが、双方での話し合いがなされることになっている。

このように日本政府が本気で改革を望めば、一定の成果が期待できるということを示したことになるのだ。したがって、国連に関しても、今、まだ分担金額が世界第3位の内に、強い国連改革の意思を示し、場合によっては、分担金の停止、その他の方法での改革を行うというのも残されたオプションの1つになりえると考える。

拠出金が一番多い米国(22%)も、2011年には、パレスチナのユネスコ加盟に反対するために、分担金の支払いを保留にした。その後もことあるごとにこの分担金の支払いを保留にしている。

このように、世界では、自国の国益のために駆け引きを行うのが常なのだ。

余談ではあるが、国連への分担金を停止しても、総会の投票権はもとより、安全保障理事会への参加、投票、拒否権についての制裁的措置は定められていない。未払い金が大きい国は米国やブラジルなどであるが、資金難などの理由ではないようである。アフリカの多くの国も未払いが多いが、上述の通り、未払いでも投票権を持っているのだ。日本は、常任理事国5ヵ国中3ヵ国より大きな額の国連への分担金(円換算で約310億円/年)を支払ってきている。

 このユネスコへの分担金の保留は、安倍政権時に当時の外務大臣であった岸田文雄(現首相)の元で行われた。また、岸田首相は、首相就任後の2022年9月に行われた第77回国連総会の一般討論の演説で、「安全保障理事会を含む国連改革」「軍縮・不拡散も含めた国連自身の機能強化」を訴えた。2度もユネスコの分担金の保留をした経験のある岸田氏なので、その方法、効果、反動などもある程度、読めるはずなので、期待したいところである。