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矢野義昭 書評 金柄憲著『赤い水曜日』金柄憲著、金光英実訳 『赤い水曜日-慰安婦運動30年の嘘』(文芸春秋)

書評 金柄憲著『赤い水曜日-慰安婦運動30年の嘘』(文藝春秋 2022年)
評者 国際歴史論戦研究所上席研究員 矢野義昭
掲載 Amazonレビュー

一日本人として納得できない腹立たしい日韓の懸案事項として、吉田清治という男の虚言と朝日新聞の誤報が重なり、国際問題にまで拡大してしまった、いわゆる「従軍慰安婦」問題がある。

もともと、「従軍慰安婦」という制度そのものが存在しなかった。居たのは、当時合法であった公娼制度に基づき、軍を相手に売春行為をしていた売春婦と彼女たちの抱え主の売春宿主たちである。売春婦の約半数は日本人であったが、元日本人売春婦で日本政府に対し賠償請求をし、あるいは旧軍による強制的連行を訴えた者は皆無である。

これがなぜ日韓間の重大事案にまでなったかと言えば、韓国内で反日活動を展開してきた旧挺対協、現在の正義連などの、主体思想派とも呼ばれる極左勢力の存在がある。彼らの主張は、日本側の虚言を誇張しさらに虚言を重ねた政治宣伝であることは、日本側の研究者により既に明らかになっている。

本書の特色は、そのような日本の先人に対する不当な誹謗中傷、名誉棄損に対する日本人の無念の思いを、韓国内の良心的学者の一人である国史教科書研究所の金柄憲所長が、代弁している点にある。

金柄憲氏は、本書を通じ、韓国内の極左勢力の主張が、公的証拠も物的証拠もなく、文献すら都合よく歪曲利用し、当時の実情を無視した、歴史学的検証に堪えないものであることを、当時の確実な証拠やデータに基づく論理的分析により、疑問の余地もなく実証している。

その批判の対象は、左派の主張の根拠となっている、自称「元慰安婦」たちの証言、司法府の判決文、クマラスワミ報告書、韓国教科書の記述、保坂祐二の金氏を名誉棄損で訴えた訴訟での主張など、広範多岐にわたっており、極左派の論拠のほぼすべてを網羅していると言ってよい。極左派の論拠は完膚無きまでに論破されている。

その点で、日本人として痛快と言えば痛快な書であるが、それだけに終始するならば、金氏に対して非礼であろう。金氏の思いは、このような極左勢力の虚偽の主張が、韓国ソウル中央地方裁判所の判決文の根拠とされ、歴史的事実として教科書に堂々と載せられていることへの深い憂慮にある。

金氏は文中で、「裁判官がデタラメな判決文を書き、教科書執筆者たちは誤った歴史を教科書に載せ、子供たちに間違った歴史を教えている。実に恥ずかしい。」と慨嘆している。

こんなことでは、「世界の中の韓国は「ウソつきの国」との烙印を押され、絶体絶命の危機に瀕する」ことになるとの、真の愛国者としての思いが行間から伝わってくる。

金氏は、単なる文筆家や研究者ではない。行動の人でもあり、慰安婦法廃止国民行動代表を務めている。1992年1月8日から、ソウル市内の日本大使館前で日本軍「慰安婦」問題解決のための水曜集会が毎週開かれてきた。

さらに2011年12月14日、水曜集会の千回目の日を記念して、日本大使館前の広場に「平和の少女像」という名の慰安婦像が設置された。このようにして、本書の書名となっている、「赤い水曜日」と呼ばれる、毎水曜日に慰安婦像前で開かれる極左勢力の「慰安婦」強制連行を非難する集会が慣例化されていった。

しかし、金柄憲氏は勇気ある行動に出た。この集会に対抗して二〇二一年七月十四日の千五百回目の水曜集会の当日、たった一人で反対デモを敢行したのである。その勇気と行動力には敬意を表さざるを得ない。金氏こそ、韓国人の気概と誇りを体現した、真の知識人というべきであろう。

今では、「赤い水曜日」の集会でも、金氏に賛同する人々が多数を占めるようになり、極左勢力は少数派に転落、かつての勢いを失っている。金氏とその理解者、支援者の根気強い、正義の声がようやく正当に評価される時代が来たと言えよう。

北東アジア情勢は、台湾海峡を巡る米中対立の激化、北朝鮮の相次ぐミサイル発射など、緊迫の度を加えている。今後ますます日韓、日米韓の緊密な連携が安全保障はじめ各分野で重要になっていくことは間違いがない。

そのような時代に先駆ける日韓の相互理解と信頼関係構築に向けた学術的金字塔として、本書を日韓の読者に薦めたい。

国際歴史論戦研究所上席研究員
矢野 義昭