国際歴史論戦研究所 所長
山本優美子
令和8年(2026年)7月、国会で改正皇室典範が成立し、10月から施行されることとなった。旧宮家の男系男子を養子に迎えることが可能となり、皇室の男系継承を維持するための制度が整えられた。今後は、静謐な環境の中で養子をお迎えし、男系男子の皇族が増え、長い歴史を持つ皇室の伝統が受け継がれていくことを願いたい。一方、懸念されるのは、皇室の男系継承に反対する国内の議論が、国連を通じて日本に逆輸入されることだ。
国連女子差別撤廃委員会と皇室典範
日本は1985年に女子差別撤廃条約を締結した。締結直前の国会で、当時の安倍晋太郎外相は、条約第一条「いかなる分野においても男女平等を基礎とする」と皇室典範との関係について次のように述べている。
「皇位継承資格が男系の男子の皇族に限定されておりましても、女子の基本的人権が侵害されることにはならない。したがって本条約が撤廃の対象としている差別にも該当しない、こういうことでございます。これは日本の皇室だけじゃございませんので、諸外国の皇室の中におきましても、皇位継承資格が男系男子に限るということが決められておる例が先進国の中でも随分みられておることは、ご承知のとおりであります。」
日本政府は条約締結前から、皇室典範と条約の関係を認識していたのである。今となっては、当時の見解が甘かったと言わざるを得ない。
その後、2003年に女子差別撤廃委員会から女性天皇について質問が出されたことがあったが、勧告には至らなかった。2016年には、委員会では議論されていなかった皇室典範について、男系男子を「女性差別」とする勧告が総括所見の草案に盛り込まれようとした。この時は日本政府の抗議により、草案から削除された。ところが2020年、日本のNGO「公益社団法人 自由人権協会 」の意見書を受けて、委員会から日本政府への事前質問リストの中に、皇室典範について女性の皇位継承を可能にする措置を問う質問が盛り込まれた。
当研究所はこの2020年以降、関係団体、研究者、識者とともに、男系男子による継承は女子差別に当たらないとする資料や意見を委員会に提出してきた。2024年10月ジュネーブで行われた女子差別撤廃委員会の対日審査にも参加し、皇室典範と女性差別は無関係であることを直接訴えた。それにもかかわらず、委員会は日本政府に次のように勧告した。
「委員会は、締約国が、女性と男性の平等を確保するために王位継承法を改正した他の締約国の好事例を参照し、皇位継承における女性と男性の平等を保障するために皇室典範を改正するよう勧告する。」
この勧告に対して日本政府は削除を要求したが、委員会が応じなかったため、任意拠出金の用途から同委員会を除外し、予定していた委員の訪日プログラム実施を見合わせる措置を取った。
国連から国際社会へ、国際社会から日本へ
国連の人権条約の委員会が一旦勧告すると、それを引用して国連内の他の委員会や人権専門家の報告書でも同様の勧告がされることが珍しくない。そこから研究者の論文やメディアなどでも引用され、国際社会に広がる。「日本軍慰安婦は性奴隷」がその例だ。だからこそ、今後も国連で皇室典範がどのように扱われるのかを注視する必要がある。
2026年8月、リヒテンシュタイン公爵は、男子長子相続制から男女を問わず長子が継承する制度への変更を発表した。これにより、欧州のすべての立憲君主国で女性の継承権が認められることになった。同国は女子差別撤廃条約を締結しているが、第一条「いかなる分野においても男女平等を基礎」を留保していた。それに対して兼ねてから女子差別撤廃委員会は、留保を撤回して女性を王位継承から排除しないよう勧告していた。
委員会は締約国の国柄や伝統を考慮しない。条約に基づいて全ての締約国を同じように審査する。日本が女子差別撤廃条約の締約国である限り、今後も皇室典範を男女平等に改正せよとの勧告が続くだろう。
日本のとるべき対応
また同様の勧告が出された場合、日本政府は前回より一層厳しい措置を取らねばならない。女子差別撤廃条約からの離脱も検討すべきだ。そして、国連の人権関連機構の制度が日本にとってどのような意味を持つのかを改めて検証し、必要な改革を求めるべきではないか。
日本の国連分担金は第三位6.9%(約2.2億ドル[350億円])である。財政難にある国連において日本の力を発揮する余地はあるはずだ。大金を出しているのに慰安婦性奴隷国家、皇室典範女子差別国家の勧告を受けている。一方的な勧告を放置せず、日本の国柄と伝統文化に基づいて堂々と主張していかねばならない。 皇室を護るのは国連ではない、日本人である。今回の改正皇室典範によって旧宮家の男系男子を養子として迎える制度が整った今、皇室の未来を静かに見守っていくのが国民の務めではないか。決して国連勧告やそれを利用した国内の皇室批判や男系反対論に左右されてはならない。
